頭が痛い、頭が重い、締め付けられるような感覚がある。このような頭痛の症状は、多くの人が日常的に経験する身近な悩みです。実際、日本人の約4人に1人は慢性的な頭痛に悩まされているといわれています。頭痛は単なる不快な症状と思われがちですが、時には重大な病気のサインである可能性もあります。
頭痛とは何か
頭痛とは、頭部に感じる痛みや不快感の総称です。痛みの感じ方は人それぞれで、ズキズキと脈打つような痛み、頭全体が締め付けられるような痛み、目の奥がえぐられるような痛みなど、さまざまな表現がされます。
頭痛は大きく「一次性頭痛」と「二次性頭痛」の2つに分類されます。一次性頭痛は頭痛そのものが病気であるもので、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛などが含まれます。これらは命に関わることはありませんが、生活の質を大きく低下させる可能性があります。一方、二次性頭痛は、脳腫瘍や脳出血など、他の病気が原因で起こる頭痛です。こちらは原因となる病気の治療が必要で、時には緊急を要する場合もあります。
頭痛のメカニズムは複雑で、血管の拡張や収縮、筋肉の緊張、神経の炎症など、さまざまな要因が関与しています。また、ストレス、睡眠不足、気圧の変化、特定の食べ物など、日常生活の中にも頭痛を引き起こす要因が潜んでいます。
主な頭痛の種類と特徴
最も多い頭痛は緊張型頭痛で、成人の約20〜30%が経験するといわれています。この頭痛は、頭全体が締め付けられるような、あるいは重い帽子をかぶったような圧迫感として感じられます。痛みは両側性で、日常生活は続けられる程度の軽度から中等度の痛みが特徴です。
緊張型頭痛の主な原因は、首や肩の筋肉の緊張です。長時間のデスクワーク、不良姿勢、精神的ストレス、眼精疲労などが引き金となります。痛みは数時間から数日続くことがあり、慢性化すると月に15日以上頭痛がある状態になることもあります。
片頭痛は、日本人の約8%が悩まされている頭痛で、特に20〜40代の女性に多く見られます。典型的な片頭痛では、頭の片側にズキンズキンと脈打つような激しい痛みが現れます。痛みは4〜72時間続き、吐き気や嘔吐を伴うことが多く、光や音、においに過敏になるのも特徴です。
片頭痛の約30%では、頭痛が始まる前に「前兆」と呼ばれる症状が現れます。視野の一部がギザギザした光で見えなくなる閃輝暗点(せんきあんてん)が最も一般的な前兆です。片頭痛の原因は完全には解明されていませんが、脳内の血管や神経の異常が関与していると考えられています。誘因として、ストレス、月経、天候の変化、特定の食べ物(チョコレート、チーズ、赤ワインなど)、睡眠不足または寝すぎなどがあります。
群発頭痛は比較的まれな頭痛ですが、その痛みは「自殺頭痛」と呼ばれるほど激烈です。片側の目の奥や周囲に、えぐられるような、焼けるような激痛が現れます。痛みは15分から3時間続き、同じ時間帯に毎日のように起こるのが特徴です。
群発頭痛は「群発期」と呼ばれる期間に集中して起こり、この期間は数週間から数か月続きます。群発期の間は、アルコールが確実に頭痛を誘発するため、禁酒が必要です。男性に多く、20〜40代で発症することが多いとされています。頭痛と同時に、痛む側の目の充血、涙、鼻水、鼻づまり、まぶたの腫れなどの自律神経症状を伴います。
頭痛を引き起こす病気
二次性頭痛の原因となる病気は多岐にわたります。最も身近なものとしては、風邪やインフルエンザがあります。ウイルス感染により発熱とともに頭痛が現れ、通常は原因となる感染症が治れば頭痛も改善します。
高血圧も頭痛の原因となることがあります。特に急激に血圧が上昇した時や、高血圧性脳症では、後頭部を中心とした頭痛が起こります。日本人の3人に1人は高血圧といわれており、定期的な血圧測定と適切な管理が重要です。
副鼻腔炎(蓄膿症)では、額や頬、目の周りに重い痛みを感じます。前かがみになると痛みが増強するのが特徴で、黄色い鼻水や鼻づまりを伴います。慢性化すると頭重感が続き、集中力の低下にもつながります。
脳腫瘍による頭痛は、初期には軽い頭痛から始まることが多く、徐々に頻度と強度が増していきます。朝方に頭痛が強く、日中は改善することが多いのが特徴です。腫瘍が大きくなると、吐き気、視力障害、性格変化、けいれんなどの症状も現れます。
最も緊急性が高いのは、くも膜下出血による頭痛です。「バットで殴られたような」「今まで経験したことのない」激しい頭痛が突然起こるのが特徴です。多くの場合、脳動脈瘤の破裂が原因で、致死率が高い危険な病気です。
その他にも、髄膜炎、脳炎、慢性硬膜下血腫、側頭動脈炎、緑内障、頸椎症など、さまざまな病気が頭痛の原因となり得ます。
頭痛の診断と検査
頭痛の診断で最も重要なのは問診です。医師は頭痛の性状(どのような痛みか)、部位(どこが痛むか)、頻度(どのくらいの頻度で起こるか)、持続時間(どのくらい続くか)、随伴症状(他にどんな症状があるか)、誘因(何がきっかけで起こるか)などを詳しく聞き取ります。
頭痛ダイアリーをつけることは、正確な診断に非常に役立ちます。いつ、どのような頭痛が、どのくらい続いたか、何がきっかけだったか、どんな薬を飲んで効果はどうだったかなどを記録しておくと、医師に的確な情報を伝えることができます。
身体診察では、血圧測定、神経学的診察(瞳孔反射、眼球運動、筋力、感覚、反射などのチェック)、頸部の診察などが行われます。髄膜刺激症状(首を前に曲げると痛みが増す)の有無も重要な所見です。
画像検査として、CTやMRIが行われることがあります。これらの検査は、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞などの器質的疾患を除外するために重要です。特に、50歳以降に初めて起こった頭痛、急激に悪化する頭痛、神経症状を伴う頭痛などでは、画像検査が必要となります。
血液検査は、炎症反応や電解質バランス、甲状腺機能などを調べるために行われます。特に側頭動脈炎が疑われる高齢者では、赤血球沈降速度(赤沈)やCRPなどの炎症マーカーが重要です。
脳波検査は、てんかんとの鑑別が必要な場合に行われます。また、腰椎穿刺(髄液検査)は、髄膜炎やくも膜下出血が疑われる場合に行われる検査です。
危険な頭痛の見分け方
頭痛の多くは一次性頭痛で命に関わることはありませんが、以下のような「危険な頭痛」のサインがある場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。
突然始まった激しい頭痛は、くも膜下出血の可能性があります。「雷鳴頭痛」とも呼ばれ、1分以内に痛みがピークに達します。今まで経験したことのない激しい頭痛と表現されることが多く、意識障害や嘔吐を伴うこともあります。
今までと違うパターンの頭痛も要注意です。いつもの頭痛と違う場所が痛む、痛み方が違う、薬が効かないなどの場合は、新たな病気が隠れている可能性があります。
進行性に悪化する頭痛は、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などを疑います。日に日に頭痛が強くなる、頻度が増える、持続時間が長くなるなどの変化がある場合は、精密検査が必要です。
発熱を伴う頭痛では、髄膜炎や脳炎の可能性を考えます。特に項部硬直(首が硬くて前に曲げられない)がある場合は、緊急性が高い状態です。
神経症状を伴う頭痛も危険です。手足の麻痺、言語障害、視覚障害、意識障害などがある場合は、脳血管障害や脳腫瘍の可能性があります。
50歳以降に初めて起こった頭痛、がん患者の新たな頭痛、免疫不全状態の人の頭痛、頭部外傷後の頭痛なども、慎重な評価が必要です。
頭痛の治療法
頭痛の治療は、頭痛のタイプや原因によって異なります。
緊張型頭痛の急性期治療では、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの鎮痛薬が使用されます。しかし、薬物の使いすぎは「薬物乱用頭痛」を引き起こす可能性があるため、月10日以上の使用は避けるべきです。慢性緊張型頭痛には、抗うつ薬や筋弛緩薬が予防的に使用されることもあります。
非薬物療法も重要で、ストレッチ、マッサージ、温熱療法、適度な運動、姿勢の改善などが効果的です。認知行動療法やリラクゼーション法も有用です。
片頭痛の急性期治療では、軽度の頭痛にはアセトアミノフェンやNSAIDsが使用されますが、中等度以上の頭痛にはトリプタン製剤が第一選択となります。トリプタンは片頭痛特異的治療薬で、血管収縮作用と抗炎症作用により頭痛を改善します。ただし、心血管疾患のある人には使用できません。
片頭痛の予防療法は、月2回以上の頭痛がある場合に考慮されます。β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などが使用されます。最近では、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)関連抗体薬という新しい予防薬も登場し、効果を上げています。
群発頭痛の急性期治療では、純酸素吸入(100%酸素を毎分7〜10リットルで15分間吸入)が最も効果的です。トリプタンの皮下注射も有効です。予防にはベラパミルというカルシウム拮抗薬が使用されます。
薬物療法以外にも、規則正しい生活、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理、トリガーの回避などの生活指導が重要です。
日常生活での頭痛予防
頭痛を予防するためには、日常生活の見直しが大切です。
まず重要なのは規則正しい生活リズムです。毎日同じ時間に寝起きし、7〜8時間の適切な睡眠をとることが大切です。寝不足も寝すぎも頭痛の誘因となるため、週末の寝だめは避けましょう。
食事も規則正しくとることが重要です。空腹は頭痛の誘因となるため、朝食を抜かず、規則的に食事をとりましょう。また、片頭痛の誘因となる食品(チョコレート、チーズ、赤ワイン、人工甘味料など)は控えめにすることをお勧めします。水分摂取も大切で、脱水は頭痛の原因となるため、1日1.5〜2リットルを目安に水分をとりましょう。
ストレス管理も頭痛予防の重要な要素です。仕事や人間関係のストレスは避けられませんが、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。深呼吸、瞑想、ヨガ、趣味の時間などでリラックスする時間を作りましょう。
適度な運動は頭痛予防に効果的です。週3回、30分程度の有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳など)がお勧めです。ただし、激しい運動は逆に頭痛を誘発することがあるため、自分のペースで行うことが大切です。
デスクワークの人は、姿勢に注意が必要です。モニターは目線と同じ高さに設置し、1時間に1回は休憩をとって首や肩のストレッチを行いましょう。また、眼精疲労も頭痛の原因となるため、適切な照明と定期的な目の休憩が大切です。
環境要因にも配慮が必要です。強い光、騒音、においは頭痛の誘因となることがあります。サングラスの着用、静かな環境の確保、換気などで対処しましょう。
よくある質問
頭痛が3日以上続く場合、いつもと違う頭痛の場合、日常生活に支障がある場合は、医療機関を受診してください。特に、発熱、意識障害、手足の麻痺などを伴う場合は、緊急受診が必要です。頭痛ダイアリーをつけて受診すると、診断に役立ちます。
首や肩のストレッチ、温かいタオルで首筋を温める、軽い運動、深呼吸などが効果的です。デスクワークの方は、1時間ごとに休憩をとり、姿勢を正すことも大切です。ストレスが原因の場合は、リラクゼーション法や趣味の時間を持つことも有効です。
軽度の片頭痛には市販の鎮痛薬が有効ですが、中等度以上の場合はトリプタン製剤が効果的です。月2回以上頭痛がある場合は、予防薬の使用も検討されます。また、誘因となる食品やストレスを避ける、規則正しい生活を送るなどの生活指導も重要です。専門医に相談して、自分に合った治療法を見つけることが大切です。
子供の頭痛は、ストレス、睡眠不足、眼精疲労、副鼻腔炎などが原因となることが多いです。まず生活リズムを整え、十分な睡眠をとらせることが大切です。頻繁に頭痛を訴える場合、学校でのストレスや視力の問題がないか確認し、小児科を受診して原因を調べてもらいましょう。
規則正しい生活リズム、適切な睡眠時間、バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理が基本です。また、自分の頭痛の誘因を知ることが大切です。頭痛ダイアリーをつけて、どんな時に頭痛が起こるかを記録し、誘因を避けるようにしましょう。カフェインやアルコールの摂りすぎにも注意が必要です。
受診の目安とタイミング
頭痛で医療機関を受診すべきタイミングを整理しておきましょう。
直ちに救急外来を受診すべき場合は、突然の激しい頭痛(雷鳴頭痛)、意識障害を伴う頭痛、手足の麻痺や言語障害を伴う頭痛、頭部外傷後の頭痛、高熱と項部硬直を伴う頭痛などです。これらは生命に関わる可能性があるため、躊躇せずに救急車を呼んでください。
早めに一般外来を受診すべき場合は、今までと違うパターンの頭痛、徐々に悪化する頭痛、50歳以降に初めて起こった頭痛、がんの既往がある人の新たな頭痛、1週間以上続く頭痛、薬が効かない頭痛などです。
慢性的な頭痛で生活に支障がある場合は、頭痛専門外来や神経内科、脳神経外科を受診することをお勧めします。適切な診断と治療により、多くの頭痛は改善可能です。
まとめ
頭痛は多くの人が経験する一般的な症状ですが、その原因や対処法は実に多様です。多くは心配のない一次性頭痛ですが、時には重大な病気のサインであることもあります。
自分の頭痛のパターンを知り、適切に対処することで、多くの頭痛は改善できます。規則正しい生活、ストレス管理、適度な運動などの生活習慣の改善は、頭痛予防の基本です。
しかし、いつもと違う頭痛、激しい頭痛、他の症状を伴う頭痛などがある場合は、遠慮せずに医療機関を受診してください。適切な診断と治療により、頭痛から解放され、快適な日常生活を送ることができるようになります。
頭痛に悩む方が、この記事を通じて自分の頭痛を正しく理解し、適切な対処ができるようになることを願っています。

仁川診療所
院長 横山 亮
(よこやま りょう)