健康診断で指摘されたら知っておきたいこと
健康診断や人間ドックで「尿潜血陽性」「尿蛋白陽性」と指摘されて、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。これらの検査結果は、腎臓や尿路系の健康状態を知る重要な手がかりとなります。この記事では、尿潜血と尿蛋白について、その意味から対処法まで詳しく解説します。
尿蛋白とは何か
尿蛋白とは、本来なら尿中にほとんど含まれないはずのタンパク質が検出される状態のことです。健康な腎臓は優れたフィルターの役割を果たしており、血液中の老廃物は通しながら、体に必要なタンパク質は血液中に残す仕組みになっています。しかし、このフィルター機能に問題が生じると、タンパク質が尿に漏れ出してしまうのです。
尿蛋白が出る理由はさまざまです。激しい運動をした後や、高熱が出ているとき、強いストレスを感じているときなどには、一時的に尿蛋白が検出されることがあります。これは生理的蛋白尿と呼ばれ、多くの場合は心配いりません。しかし、何度検査しても尿蛋白が検出される場合は、腎臓に何らかの病気が隠れている可能性があります。
尿蛋白の量は、試験紙を使った定性検査では「−(陰性)」「±(偽陽性)」「+(陽性)」「++」「+++」などで表されます。健康な人でも1日に150mg程度のタンパク質は尿中に排泄されますが、これを超える量が検出されると異常と判断されます。
尿潜血とは何か
尿潜血とは、肉眼では見えないほどの微量な血液が尿に混じっている状態を指します。尿検査で陽性と判定されても、実際に尿を見ただけでは赤くないことがほとんどです。これを顕微鏡的血尿といい、顕微鏡で観察すると赤血球が確認できます。一方、尿が明らかに赤い、茶色い、コーラのような色をしている場合は肉眼的血尿と呼ばれ、より多くの血液が混じっていることを示しています。
尿潜血の原因は多岐にわたります。腎臓から尿道までの尿の通り道のどこかに異常があると、血液が混じる可能性があります。女性の場合は生理中の影響で陽性になることもあり、激しい運動後に一時的に陽性になることもあります。しかし、持続的に尿潜血が見られる場合は、何らかの病気が隠れている可能性があるため、詳しい検査が必要です。
尿潜血の検査も試験紙を使って行われ、「−(陰性)」から「+++」まで段階的に判定されます。健康な人でも、まれに赤血球が尿に混じることはありますが、通常は陰性となります。
尿蛋白が出る主な病気
尿蛋白が持続的に検出される場合、以下のような病気が考えられます。
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。初期にはほとんど自覚症状がなく、尿蛋白の増加が最初のサインとなることが多いのが特徴です。日本では成人の約8人に1人がCKDと推定されており、早期発見・早期治療が重要です。進行すると最終的に透析や腎移植が必要になることもあります。
糖尿病性腎症は、糖尿病の三大合併症の一つです。高血糖状態が続くことで腎臓の血管が傷つき、フィルター機能が低下します。最初は微量のアルブミン(タンパク質の一種)が尿に漏れ出す程度ですが、進行すると大量のタンパク質が失われるようになります。糖尿病の方は、定期的な尿検査で腎症の早期発見に努めることが大切です。
ネフローゼ症候群は、大量のタンパク質が尿に漏れ出す病気です。1日3.5g以上のタンパク質が尿中に失われ、その結果、血液中のタンパク質が減少します。顔や足のむくみ、体重増加、泡立つ尿などの症状が現れます。原因はさまざまで、腎臓自体の病気によるものと、全身の病気に伴うものがあります。
急性腎炎は、腎臓に急激な炎症が起こる病気です。溶連菌感染症の後に発症することが多く、尿蛋白、血尿、むくみ、高血圧などの症状が現れます。適切な治療により多くの場合は回復しますが、慢性化することもあるため注意が必要です。
尿潜血が出る主な病気
尿潜血が見られる場合、以下のような病気の可能性があります。
尿路結石は、腎臓や尿管、膀胱などに石ができる病気です。結石が尿路を傷つけることで出血し、尿潜血の原因となります。激しい腰痛や側腹部痛を伴うことが多く、痛みは波のように強くなったり弱くなったりするのが特徴です。小さな結石は自然に排出されることもありますが、大きな結石は治療が必要です。
膀胱炎は、主に細菌感染により膀胱に炎症が起こる病気です。女性に多く、頻尿、残尿感、排尿時の痛みなどの症状とともに尿潜血が見られます。適切な抗生物質による治療で改善しますが、再発しやすいため、生活習慣の改善も重要です。
腎盂腎炎は、膀胱炎が悪化して腎臓まで炎症が広がった状態です。高熱、悪寒、腰痛などの全身症状とともに、尿潜血や膿尿が見られます。入院治療が必要になることもあり、早期の診断と治療が重要です。
腎臓、尿管、膀胱などの腫瘍も尿潜血の原因となります。特に50歳以上で喫煙歴がある方は、膀胱がんのリスクが高くなります。初期には痛みなどの症状がなく、尿潜血だけが唯一のサインということもあるため、尿潜血が続く場合は必ず精密検査を受けることが大切です。
検査結果の見方と受診の目安
尿検査の結果を正しく理解することは、適切な対応をとるために重要です。
尿蛋白の検査結果は、通常「−(陰性)」が正常です。「±(偽陽性)」は境界域で、再検査が必要な場合があります。「+(1+)」以上は明らかに異常で、特に「++(2+)」「+++(3+)」と数値が大きくなるほど、腎臓の障害が強い可能性があります。ただし、1回の検査だけで判断せず、複数回の検査結果を総合的に評価することが大切です。
尿潜血も同様に「−(陰性)」が正常で、「+」以上は異常を示します。ただし、女性の場合は生理の影響を受けやすく、採尿のタイミングに注意が必要です。また、ビタミンCを多く摂取していると、実際は陽性でも陰性と判定されることがあるため、検査前日からビタミンCのサプリメントは控えることが推奨されます。
以下のような場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。尿蛋白や尿潜血が2回以上の検査で陽性となる場合、尿の色が明らかに赤い、茶色い場合、顔や足のむくみがある場合、血圧が高い場合、腰痛や側腹部痛がある場合、頻尿や排尿時の痛みがある場合、体重が急に増えた場合、疲れやすくなった場合などです。
精密検査について
尿検査で異常が見つかった場合、原因を特定するために以下のような精密検査が行われます。
尿沈渣検査では、尿を遠心分離機にかけて、顕微鏡で詳しく観察します。赤血球や白血球の数、形、円柱(腎臓の尿細管で作られる構造物)の有無などを調べ、病気の場所や種類を推定します。
24時間蓄尿検査は、1日分の尿をすべて集めて、タンパク質の総量を正確に測定する検査です。日常生活での変動を含めた正確な評価ができます。
血液検査では、腎機能を評価するクレアチニンや尿素窒素、電解質バランスなどを調べます。糖尿病の有無を確認する血糖値やHbA1cの測定も重要です。
画像検査として、超音波検査、CT検査、MRI検査などが行われることがあります。これらにより、腎臓の大きさや形、結石や腫瘍の有無などを確認できます。
必要に応じて、膀胱鏡検査で膀胱内を直接観察したり、腎生検で腎臓の組織を採取して詳しく調べることもあります。
日常生活で気をつけること
血圧管理は腎臓を守るために最も重要です。塩分を控えめにし、1日6g未満を目標にしましょう。野菜や果物を積極的に摂取し、カリウムの摂取を増やすことも血圧管理に役立ちます。ただし、腎機能が低下している場合はカリウム制限が必要なこともあるため、医師の指示に従ってください。
適度な運動は腎臓の健康維持に有効ですが、激しすぎる運動は一時的に尿蛋白や尿潜血を増加させることがあります。ウォーキングや水泳などの有酸素運動を、週3回以上、1回30分程度行うのが理想的です。
水分摂取も重要です。脱水は腎臓に負担をかけるため、1日1.5〜2リットルを目安に水分を摂りましょう。ただし、心臓や腎臓の病気で水分制限がある場合は、医師の指示に従ってください。
禁煙は必須です。喫煙は腎臓の血管を傷つけ、腎機能の低下を早めます。また、膀胱がんのリスクも高めるため、尿潜血がある方は特に禁煙が重要です。
定期的な検査を欠かさないことも大切です。尿検査は簡単で体への負担も少ない検査です。異常を指摘された方は、3〜6か月ごとの定期検査を受け、経過を観察することが推奨されます。
よくある質問
運動後やストレス、発熱時には一時的に尿蛋白が出ることがあり、これは生理的蛋白尿と呼ばれ、多くの場合心配いりません。ただし、安静時の再検査でも陽性が続く場合は、腎臓の病気が隠れている可能性があるため、専門医の診察を受けることをお勧めします。
無症状の尿潜血は、腎臓の病気(IgA腎症など)や、腎臓・尿管・膀胱の腫瘍が原因である可能性があります。特に50歳以上の方は、痛みがなくても膀胱がんなどの可能性を考慮し、必ず精密検査を受けることが重要です。
両方が陽性の場合、腎臓自体の病気(慢性腎炎、IgA腎症など)の可能性が高くなります。腎臓の専門医(腎臓内科)での精密検査が必要です。早期診断・早期治療により、腎機能の低下を防げる可能性があります。
一度の検査で異常がなくても、むくみ、高血圧、頻尿、腰痛などの症状がある場合は再検査をお勧めします。また、糖尿病や高血圧の方は、定期的な尿検査により早期に腎障害を発見できるため、年に1〜2回の検査が推奨されます。
尿が赤色、ピンク色、茶色、コーラ色に変わった場合は、血尿の可能性が高いため、すぐに医療機関を受診してください。ただし、ビーツや人工着色料を含む食品、一部の薬剤でも尿の色が変わることがあるため、摂取したものも医師に伝えることが大切です。
まとめ
尿潜血や尿蛋白は、腎臓や尿路系の異常を知らせる重要なサインです。健康診断で指摘されても、自覚症状がないからと放置せず、適切な精密検査を受けることが大切です。早期発見・早期治療により、腎機能の低下を防ぎ、透析などの重篤な状態を回避できる可能性が高まります。
定期的な検査と日常生活の改善により、腎臓の健康を守ることができます。異常を指摘された方は、この機会に生活習慣を見直し、専門医と相談しながら適切な管理を行っていきましょう。

仁川診療所
院長 横山 亮
(よこやま りょう)