頭皮がかゆい、フケが止まらない、顔の赤みが気になる。
こうした症状に悩まされていませんか。それは脂漏性皮膚炎かもしれません。
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が盛んな部位に起こる慢性的な炎症性の皮膚疾患です。頭皮、顔の中心部(特に眉毛の周辺や鼻の脇)、耳の裏、胸部、背中の中央など、皮脂腺が多く集まる場所に発症しやすいのが特徴です。赤みやかゆみを伴い、白いフケのような皮膚片がポロポロと剥がれ落ちることもあります。
この病気は成人だけでなく、乳児にも見られます。乳児の場合は「乳児脂漏性皮膚炎」や「乳児湿疹」と呼ばれ、頭皮に黄色っぽい厚いかさぶたが形成されることがあります。多くは自然に治りますが、適切なケアが必要です。
成人の脂漏性皮膚炎は、症状が長期間続きやすく、良くなったり悪くなったりを繰り返すことが多いのが厄介なところです。見た目の問題だけでなく、かゆみや不快感によって日常生活の質が下がることもあります。完治は難しい疾患ですが、適切な治療とケアによって症状をコントロールし、快適に過ごすことは十分に可能です。
なぜ脂漏性皮膚炎になるのか
脂漏性皮膚炎の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの要因が複合的に関わっていることがわかっています。
皮脂の過剰な分泌
皮脂腺が活発に働く部位に症状が現れることから、皮脂の分泌量が大きく関係しています。ホルモンバランスの変化や遺伝的な体質によって、皮脂の分泌が増えやすい人がいます。特に思春期以降の男性や、ストレスが多い生活を送っている方に多く見られます。
マラセチア菌の増殖
私たちの皮膚には、マラセチアという真菌(カビの一種)が常に住んでいます。この菌は通常は害を及ぼしませんが、皮脂を栄養源として増殖します。何らかの原因でマラセチア菌が異常に増えると、その代謝産物が皮膚に炎症を引き起こし、脂漏性皮膚炎の発症につながると考えられています。
ストレスや疲労の蓄積
精神的なストレスや身体的な疲労が続くと、免疫機能が低下します。その結果、皮膚の防御機能が弱まり、炎症が起きやすくなります。実際、仕事が忙しい時期や睡眠不足が続いたときに症状が悪化する方は少なくありません。
季節や環境の影響
気温や湿度の変化も症状に影響を与えます。湿度が高い季節には皮脂の分泌が増えて症状が出やすくなる一方、冬の乾燥した空気も皮膚のバリア機能を低下させ、炎症を悪化させることがあります。冷暖房による室内の乾燥も注意が必要です。
これらの要因が複数重なることで、脂漏性皮膚炎が発症しやすくなります。自分の生活環境や体質を振り返り、どの要因が当てはまるか考えてみることが、対策の第一歩となります。
こんな症状があったら脂漏性皮膚炎かも
脂漏性皮膚炎には特徴的な症状がいくつかあります。当てはまるものがないかチェックしてみましょう。
赤みと炎症が最も目立つ症状です。眉毛の間や眉毛の下、鼻の両脇、耳の裏側、頭皮などに赤い斑点が現れます。境界がはっきりしていることが多く、時には赤みの上に黄色っぽい脂性の鱗屑(皮膚片)が付着していることもあります。
強いかゆみを伴うことも多く、特に頭皮のかゆみは我慢できないほど強いことがあります。無意識にかいてしまうと、皮膚が傷つき、症状がさらに悪化する悪循環に陥ります。夜間にかゆみで目が覚めてしまうという方もいます。
フケのような皮膚の剥離も典型的な症状です。頭皮では白いフケが大量に出たり、時には塊のような皮膚片が剥がれたりします。顔や耳の周りでも、薄い皮膚が細かく剥がれ落ちることがあり、見た目が気になって外出が億劫になる方もいます。
皮膚のべたつきも特徴的です。皮脂の分泌が多い部位では、触るとベタベタした感触があります。頭皮では髪がすぐに油っぽくなり、顔では化粧が崩れやすくなったりします。
症状を放置して慢性化すると、皮膚が厚くゴワゴワした感じになり、治りにくくなることがあります。これらの症状に気づいたら、早めに対処することが大切です。
効果的な治療法について
脂漏性皮膚炎の治療は、炎症を抑えることと、原因となるマラセチア菌の増殖を抑えることが中心になります。
抗真菌薬による治療
マラセチア菌の増殖を抑えるため、抗真菌成分を含む外用薬が使われます。頭皮にはケトコナゾールやミコナゾールを含むシャンプーが効果的で、週に2〜3回使用することで症状を改善できます。顔や体には、クリームやローションタイプの抗真菌薬が処方されます。これらは数週間継続して使用することで効果が現れます。
ステロイド外用薬
炎症が強く、かゆみが我慢できないような場合には、短期間に限ってステロイド外用薬が使われます。炎症を素早く鎮める効果がありますが、長期間使い続けると皮膚が薄くなるなどの副作用が出る可能性があるため、医師の指示に従って適切に使用することが重要です。症状が落ち着いたら、抗真菌薬だけに切り替えていきます。
特殊なシャンプーの活用
頭皮の症状には、ケトコナゾールシャンプーが有効です。このシャンプーは抗真菌作用と抗炎症作用を併せ持ち、フケやかゆみを効果的に抑えます。使用時は頭皮に直接つけて軽くマッサージし、数分間置いてから洗い流すとより効果的です。
保湿とスキンケア
皮膚のバリア機能を保つため、適切な保湿も欠かせません。乾燥は症状を悪化させる要因の一つなので、低刺激性の保湿剤を使って皮膚を保護します。ただし、油分が多すぎるクリームは逆効果になることもあるため、軽めのローションタイプがお勧めです。
治療効果が十分に得られない場合や、症状が重い場合は、内服薬が検討されることもあります。皮膚科専門医に相談して、自分に合った治療法を見つけることが大切です。
再発を防ぐ日常のケア
脂漏性皮膚炎は再発しやすい疾患ですが、日々の生活習慣を見直すことで、症状をコントロールしやすくなります。
適切な洗浄習慣を身につける
毎日の洗顔とシャンプーで、余分な皮脂や汗をしっかり洗い流しましょう。ただし、洗いすぎは禁物です。皮脂を取りすぎると、皮膚が乾燥を補おうとしてかえって皮脂分泌が増えてしまいます。ぬるま湯で優しく洗い、洗浄剤は適量を使うことを心がけてください。シャンプーの洗い残しも炎症の原因になるため、すすぎは念入りに行いましょう。
低刺激性の製品を選ぶ
肌への負担を減らすため、無香料で低刺激性のスキンケア製品を選びましょう。アルコール分が多い化粧品や、洗浄力が強すぎる洗顔料は避けてください。新しい製品を試すときは、まず小さな範囲でパッチテストを行い、肌に合うか確認すると安心です。
ストレスと上手に付き合う
ストレスが症状を悪化させることは多くの患者さんが経験しています。完全にストレスをなくすことは難しいですが、自分なりのリラックス方法を見つけることが大切です。十分な睡眠時間を確保し、趣味の時間を持つ、適度な運動をするなど、心身をリフレッシュする習慣を取り入れましょう。
食生活を見直す
脂っこい食事や甘いものの取りすぎは、皮脂の分泌を増やす可能性があります。揚げ物やファストフード、スナック菓子などは控えめにし、野菜や果物、魚などバランスの取れた食事を心がけましょう。ビタミンB群や亜鉛を含む食品は、皮膚の健康維持に役立ちます。
適度な運動を習慣に
運動は血行を促進し、代謝を高めることで皮膚の健康を保ちます。ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなど、無理なく続けられる運動を日常に取り入れましょう。ただし、運動後は汗をそのままにせず、できるだけ早くシャワーを浴びて清潔に保つことが重要です。
自宅でできるセルフケア
医療機関での治療と並行して、自宅でできるケアも症状の改善に役立ちます。
頭皮のケアでは、処方された薬用シャンプーを正しく使うことが基本です。シャンプー後は髪と頭皮をしっかり乾かし、湿った状態を長時間放置しないようにしましょう。マラセチア菌は湿った環境を好むため、ドライヤーで根元から乾かすことが予防につながります。
顔や体のケアでは、低刺激性の洗浄剤で優しく洗い、入浴後すぐに保湿を行います。タオルでゴシゴシこすらず、押さえるように水分を拭き取りましょう。患部に刺激を与えないことが大切です。
室内環境の調整も忘れずに。冬場は暖房で空気が乾燥しがちなので、加湿器を使って適度な湿度(50〜60%程度)を保ちましょう。ただし、湿度が高すぎてもマラセチア菌が増えやすくなるため、バランスが重要です。
適度な日光浴には抗炎症作用があり、症状の改善に役立つことがあります。ただし、長時間の紫外線は肌にダメージを与えるため、1日15〜30分程度の軽い日光浴にとどめましょう。外出時には低刺激性の日焼け止めで肌を保護してください。
枕カバーやタオルの清潔も大切です。これらは皮脂や菌が付着しやすいため、こまめに洗濯して清潔に保ちましょう。特に枕カバーは毎日交換するか、清潔なタオルを敷いて寝ることをお勧めします。
よくある質問にお答えします
脂漏性皮膚炎は慢性疾患であり、完全に治癒することは難しいとされています。しかし適切な治療とケアを続けることで、症状をほとんど感じない状態まで改善し、その状態を維持することは十分に可能です。定期的なケアを習慣化することが大切です。
症状の程度や治療への反応には個人差がありますが、適切な治療を始めれば、軽症の場合は数週間で改善が見られることが多いです。ただし再発しやすい疾患なので、症状が治まってもケアを継続することが重要です。
脂漏性皮膚炎は感染症ではないため、人から人へうつることはありません。マラセチア菌は誰の皮膚にも存在する常在菌で、それ自体が感染を引き起こすものではないのです。安心して日常生活を送ってください。
食事と脂漏性皮膚炎の直接的な因果関係は完全には証明されていませんが、脂っこい食事や糖分の多い食事が皮脂分泌を増やす可能性は指摘されています。バランスの取れた食生活を心がけることで、症状の改善につながる可能性があります。
低刺激性の化粧品を選べば、化粧をすること自体は問題ありません。ただし、油分の多いファンデーションや落ちにくいメイクは避け、帰宅後はできるだけ早くクレンジングすることが大切です。肌に負担の少ないミネラルファンデーションなどを検討してみてください。
脂漏性皮膚炎の診断と治療には、皮膚科を受診することをお勧めします。皮膚科専門医による適切な診断と治療で、症状を効果的にコントロールできます。症状が長引いている場合や、市販薬で改善しない場合は、早めに受診しましょう。
軽症の場合は、抗真菌成分を含む市販のシャンプーやクリームで改善することもあります。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は、自己判断せずに皮膚科を受診してください。適切な診断を受けることが重要です。

仁川診療所
副院長 横山 恵里奈
(よこやま えりな)