静脈血栓塞栓症(VTE)は、血管の中に血の塊ができて血液の流れが妨げられる病気です。この病気には主に2つのタイプがあり、足の静脈に血栓ができる深部静脈血栓症(DVT)と、その血栓が肺に飛んで肺の血管を詰まらせる肺塞栓症(PE)に分かれます。
見逃してしまうと命に関わることもあるため、特に長時間同じ姿勢でいることが多い方は注意が必要です。飛行機での長距離移動や入院中のベッド上安静など、じっとしている時間が長くなると発症しやすくなります。
どんな時に起こりやすいのか
動かない時間が長く続くと危険
飛行機や車での長時間移動、手術後の安静状態では血液の流れが滞りやすくなります。血液がよどむことで固まりやすくなり、特に足の静脈に血栓ができやすくなるのです。
年齢による変化も関係
歳を重ねると血液の性質が変わり、粘り気が増してきます。血管の弾力性も低下するため、血栓ができやすい環境になります。さらに高齢になると運動量も減りがちで、これもリスクを高める要因となっています。
妊娠・出産期は特に注意
妊娠中から産後にかけては、ホルモンバランスの変化や血液循環の変化により血栓リスクが上がります。特に出産後の時期には十分な警戒が必要です。
体重や生活習慣の影響
肥満になると下半身への負担が増え、血液の流れが悪くなります。また喫煙は血液を固まりやすくし、血管の内側を傷つけるため、DVTやPEの発症リスクを大きく高めてしまいます。
どんな症状が出るのか
足に現れるサイン
DVTの典型的な症状として、片方の足だけが腫れたり痛んだりすることがあります。特にふくらはぎが硬くなって痛みを感じる場合は要注意です。皮膚が赤みを帯びて、触ると温かく感じることもあります。
肺に血栓が飛んだ時の危険な症状
肺塞栓症が起きると、急に息苦しくなったり胸が痛くなったりします。血栓が肺の血管を塞ぐことで起こる症状で、非常に危険な状態です。咳や血の混じった痰が出ることもあります。
全身に及ぶ影響
大きな血栓が肺を塞いでしまうと、体全体に酸素が行き渡らなくなります。その結果、強い疲労感やめまい、意識がぼんやりするといった症状が現れます。このような症状が出たら、すぐに救急対応が必要です。
初期には自覚症状がないこともあるため、リスクがある方は特に注意深く体の変化を観察することが大切です。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
診断のための検査
超音波検査(エコー検査)
DVTの診断で最もよく使われる検査です。痛みもなく体への負担が少ないため、安心して受けられます。超音波を使って血管の中を見て、血栓があるかどうかや血液の流れを確認します。
血液検査(Dダイマー測定)
血栓が壊れるときにできるDダイマーという物質の量を測ります。この値が高いと血栓が存在する可能性が高くなるため、診断の重要な手がかりになります。
CT検査
肺塞栓症が疑われる場合に行います。造影剤を使うことで肺の血管の詳しい画像が得られ、血栓の位置や大きさを正確に把握できます。
血管造影検査
血管に造影剤を入れてレントゲン撮影を行う検査です。より正確な診断ができますが、体への負担があるため、必要な場合に限って慎重に実施されます。
これらの検査結果を総合的に判断して、最適な治療方針を決めていきます。
起こりうる合併症
肺塞栓症のリスク
足の血栓が血流に乗って肺まで運ばれ、肺の血管を詰まらせる状態です。息苦しさや胸の痛みを引き起こし、命に関わることもある最も深刻な合併症といえます。
血栓後症候群による長期的な影響
治療後も血栓の影響が残り、足のむくみや痛み、皮膚の色が変わるなどの症状が続くことがあります。静脈瘤や皮膚潰瘍ができることもあり、日常生活に支障をきたす可能性があります。
再発の可能性
一度発症すると繰り返しやすいのがこの病気の特徴です。予防対策が十分でないと、再びDVTやPEを発症するリスクが高まります。
合併症を防ぐには、早期の適切な治療と継続的な予防対策が欠かせません。
治療の方法
治療の目的は血栓を取り除き、新たな血栓ができるのを防ぐことです。
抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)
ワルファリンやヘパリン、新しいタイプの経口抗凝固薬を使って血液が固まりにくい状態にします。血栓が大きくなるのを防ぎ、再発予防にもつながります。
血栓溶解療法
血栓を直接溶かす薬を使う治療法です。急性の肺塞栓症では命を救うために重要な治療となりますが、出血のリスクもあるため慎重に行われます。
カテーテルによる治療
細い管(カテーテル)を血管に入れて血栓を取り除く方法です。大きな血栓や薬が効きにくい場合に選択され、直接血栓を除去できるため速効性があります。
弾性ストッキングの活用
足に圧力をかけて血液の流れを良くする特殊なストッキングを着用します。DVTの再発予防や血栓後症候群の症状軽減に効果的です。
日常生活でできる予防
こまめに体を動かす
長時間座る必要がある時も、1時間に1回は立ち上がって歩くようにしましょう。飛行機や長距離バスでの移動中は、座ったままでも足首を回したりかかとの上げ下げをするだけでも効果があります。
しっかり水分補給
血液が濃くなって固まりやすくならないよう、こまめに水分を取りましょう。特に暑い時期や運動後、長時間の移動中は意識して水分補給することが大切です。
弾性ストッキングの着用
リスクが高い方は、医師の指導のもと適切なサイズの弾性ストッキングを着用することで予防効果が期待できます。手術後や長時間移動する際は特に有効です。
禁煙する
喫煙は血管を傷つけ、血栓をできやすくする大きな要因です。喫煙習慣がある方は、この機会に禁煙を検討してみてください。
よくある疑問にお答えします
デスクワークなど座る時間が長い方は、足首を回したりかかとを上げ下げするような簡単な動きが効果的です。ウォーキングや軽いジョギングも血液循環を良くするのでおすすめです。
超音波検査、CT検査、血液検査などを組み合わせて行います。これらの検査で血栓の有無や血管の状態を詳しく調べ、その結果に基づいて治療方針を決定します。
サイズ選びが非常に重要です。医師や専門スタッフの指導を受けて、自分に合った圧力とサイズのものを選びましょう。正しい着用方法も効果を得るために大切なポイントです。
抗凝固薬には出血リスクが伴います。怪我をした時や他の薬と一緒に飲む時は特に注意が必要です。出血が止まりにくい、あざができやすいなどの症状があれば、すぐに担当医に相談してください。
はい、再発リスクは高くなります。予防策をしっかり続け、定期的に医師の診察を受けることが再発防止には重要です。自己判断で薬をやめたりせず、医師の指示に従いましょう。

仁川診療所
院長 横山 亮
(よこやま りょう)