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脳梗塞は死ぬ病気?治る病気? ― 原因・症状・予防を循環器専門医が解説

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2026年8月、人気お笑いコンビのメンバーが脳梗塞で入院中であることが報道され、大きな話題となりました。51歳という働き盛りの年齢での発症に、「自分も他人事ではないのでは」と不安を感じた方も多いのではないでしょうか。

「脳梗塞になったら死んでしまうの?」「脳梗塞は治るの?」「そもそも脳梗塞の原因は何?」――こうした疑問は、まさに多くの方が知りたいことだと思います。

実は脳梗塞は、原因の多くが高血圧や不整脈(心房細動)、動脈硬化といった循環器の病気と深く関わっています。つまり、脳梗塞を防ぐためには、心臓と血管の健康を守ることがとても重要なのです。

脳梗塞とは ― どんな病気?

脳梗塞とは、脳の血管が血栓(血液の塊)などによって詰まり、その先の脳細胞に血液が届かなくなることで、脳の一部が壊死(えし)してしまう病気です。「脳卒中」の一種で、脳卒中全体の約7割を脳梗塞が占めています。

脳の細胞は、血流が途絶えるとわずか数分で障害を受け始めます。そのため、脳梗塞は発症から治療開始までのスピードが、命を救えるかどうか、後遺症が残るかどうかを大きく左右する「時間との闘い」の病気です。

脳梗塞の3つのタイプ

ラクナ梗塞

脳の細い血管(穿通枝)が高血圧などによって傷つき、詰まるタイプです。比較的小さな梗塞ですが、繰り返すと認知症や歩行障害の原因になることがあります。日本人に最も多いタイプです。

アテローム血栓性脳梗塞

動脈硬化によって脳の太い血管が狭くなったり詰まったりするタイプです。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病が深く関わっています。

心原性脳塞栓症

心臓の中にできた血栓が血流に乗って脳に飛び、脳の血管を詰まらせるタイプです。主な原因は心房細動という不整脈で、脳梗塞の約30%がこのタイプとされています。広い範囲の脳が一度にダメージを受けるため、3つのタイプの中で最も重症化しやすく、「ノックアウト型脳梗塞」とも呼ばれます。

「脳梗塞で死ぬ」ことはあるのか ― 死亡率のデータ

結論から言えば、脳梗塞で命を落とすことは決して珍しくありません。

厚生労働省の人口動態統計(令和4年)によると、脳梗塞による年間死亡者数は約59,000人です。脳出血(約33,000人)やくも膜下出血(約11,000人)を合わせた脳血管疾患全体では年間約107,000人が亡くなっており、がん・心疾患に次ぐ日本人の死因第3位を占めています。

また、脳梗塞は命が助かった場合でも、麻痺や言語障害、高次脳機能障害などの後遺症が残ることが少なくありません。厚生労働省の国民生活基礎調査では、介護が必要になる原因の第2位が脳卒中(脳梗塞を含む)で、約2割を占めています。

つまり脳梗塞は、「命を脅かすだけでなく、その後の生活を大きく変えてしまう病気」なのです。

脳梗塞は治るのか ― 治療と回復の現実

「脳梗塞は治るのか」――これは多くの方が最も気になる点だと思います。

発症から4.5時間以内が「ゴールデンタイム」

脳梗塞の治療で最も重要なのは、発症からの時間です。現在の標準治療である「t-PA(血栓溶解療法)」は、発症から4.5時間以内に投与すれば、血栓を溶かして血流を回復させ、後遺症を大幅に軽減できる可能性があります。

また、太い血管が詰まった場合には、カテーテルを使って血栓を直接取り除く「血栓回収療法」が行われることもあり、こちらは発症から原則8時間以内(条件によっては24時間以内)が対象となります。

いずれにしても、早く治療を開始するほど、回復の可能性は高くなります。冒頭で紹介した芸能人の方も、迅速な対応により大事に至らなかったと報じられています。「おかしい」と感じたらすぐに救急車を呼ぶことが、何より大切です。

回復はするが、後遺症が残ることもある

脳梗塞は適切な治療を受ければ回復する可能性のある病気です。しかし、壊死してしまった脳の細胞は元に戻りません。梗塞の範囲や場所によっては、手足の麻痺、言葉が出にくくなる失語症、飲み込みにくくなる嚥下障害、記憶力や注意力の低下(高次脳機能障害)などの後遺症が残ることがあります。

そのため、脳梗塞は「治すこと」以上に「ならないこと」=予防が極めて重要な病気と言えます。

脳梗塞の原因 ― なぜ起こるのか

脳梗塞の原因は、大きく分けて「動脈硬化」と「心臓の病気(特に心房細動)」の2つです。そして、その両方に深く関わっているのが、高血圧をはじめとする生活習慣病です。

最大の原因:高血圧

脳梗塞の最も重要な危険因子は高血圧です。高い血圧が長期間続くと、脳の血管の壁が傷つき、動脈硬化が進行します。厚生労働省のe-ヘルスネットによれば、高血圧が完全に予防できれば、日本人の脳卒中は今よりも約半分に減ると考えられています。

心房細動 ― 心臓が原因の脳梗塞

心房細動は、心臓の「心房」が小刻みに震えるように動く不整脈です。心房の中で血液がよどみ、血栓ができやすくなります。この血栓が脳に飛んで血管を詰まらせるのが「心原性脳塞栓症」で、脳梗塞全体の約30%を占めます。

心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞のリスクが2~7倍高くなるとされており、適切な抗凝固療法(血液をサラサラにする治療)による予防が不可欠です。

心房細動は自覚症状がないことも多く、健康診断の心電図で初めて指摘されるケースも少なくありません。「脈が不規則に飛ぶ感じがする」「動悸がする」という方は、一度循環器内科を受診されることをおすすめします。

動脈硬化を進める危険因子

動脈硬化は、以下のような生活習慣病によって進行します。これらはすべて、脳梗塞の危険因子でもあります。

・高血圧 ― 脳梗塞の最大のリスク因子。血管の壁を傷つけ、動脈硬化を促進します。
・糖尿病 ― 血管を傷つけ、動脈硬化を加速させます。脳梗塞のリスクを約2~3倍高めます。
・脂質異常症 ― LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血管の壁にたまり、動脈硬化の原因になります。
・喫煙 ― 血管を収縮させ、血液を固まりやすくし、動脈硬化を促進します。
・肥満・メタボリックシンドローム ― 高血圧、糖尿病、脂質異常症を併発しやすく、リスクが重なります。
・過度の飲酒 ― 血圧を上昇させ、心房細動のリスクも高めます。

これらの危険因子は、一つひとつは「よくある生活習慣病」ですが、放置すれば脳梗塞という重大な結果を招く可能性があることを知っておいてください。

脳梗塞の前兆 ― こんな症状に要注意

脳梗塞は突然発症する病気ですが、前兆として「一過性脳虚血発作(TIA)」が現れることがあります。TIAは脳梗塞と同じ症状が一時的に現れ、通常は数分~数十分で消えるものですが、これは「本番の脳梗塞の警告サイン」です。TIAを経験した人の約15~20%が、その後90日以内に脳梗塞を発症するとされています。

以下のような症状が突然現れたら、たとえすぐに治まっても、すぐに医療機関を受診してください。

・片側の手足に力が入らない、しびれる
・言葉が出てこない、ろれつが回らない
・片目が見えなくなる、視野の半分が欠ける
・めまいがして、まっすぐ歩けない
・突然の激しい頭痛

「FAST(ファスト)」という覚え方が広く知られています。

・Face(顔のゆがみ) ― 笑った顔が左右で違う
・Arm(腕の脱力) ― 片腕が上がらない、下がってくる
・Speech(言葉の障害) ― うまくしゃべれない
・Time(時間) ― 一つでも当てはまれば、すぐに119番

脳梗塞を予防するために

脳梗塞は「予防できる病気」です。

脳梗塞の予防

・血圧の適切なコントロール ― 降圧目標に合わせた薬物療法と生活指導
・心房細動の早期発見と治療 ― 心電図検査による発見、抗凝固療法による脳梗塞予防
・動脈硬化の評価と進行予防 ― 頸動脈エコーや血液検査での評価、スタチンなどによる管理
・糖尿病・脂質異常症の管理 ― 動脈硬化の危険因子を総合的にコントロール
・生活習慣の改善指導 ― 減塩、禁煙、適度な運動、節酒、体重管理

「まだ大丈夫」が最も危険

高血圧も心房細動も、初期には自覚症状がほとんどありません。「血圧が高いと言われたけど、元気だから大丈夫」「脈が少し不規則な気がするけど、すぐ治るから」――こうした油断が、ある日突然の脳梗塞につながります。

まとめ

脳梗塞は、年間約59,000人が亡くなり、助かっても後遺症が残ることの多い深刻な病気です。しかし同時に、原因のほとんどが高血圧・心房細動・動脈硬化といった循環器の病気であり、適切に管理すれば予防できる病気でもあります。

今回の芸能人の方のニュースをきっかけに、「自分は大丈夫だろうか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。その「不安」こそが、予防の第一歩です。

血圧が気になる方、健康診断で不整脈や生活習慣病を指摘された方、ご家族に脳梗塞や心臓病の方がいらっしゃる方は、どうぞお気軽に仁川診療所にご相談ください。循環器専門医・総合内科専門医として、脳梗塞を未然に防ぐお手伝いをいたします。

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