夏の訪れとともに増える虫刺され。多くの方が「たかが虫刺され」と軽く考えがちですが、実は適切な対処を怠ると思わぬ健康被害につながることがあります。特に赤い腫れがひどくなったり、硬いしこりのような腫れが続いたりする場合は、単なる虫刺されでは済まない可能性があるため注意が必要です。
虫刺されで起こる腫れのメカニズムと種類別の特徴
虫に刺されると、私たちの体は異物である虫の唾液成分に対して免疫反応を起こします。この反応によってヒスタミンという物質が放出され、血管が拡張して赤みや腫れ、かゆみが生じるのです。ただし、刺す虫の種類によって症状の現れ方は大きく異なります。
最も身近な蚊による虫刺されは、刺された直後から数時間以内に小さな赤い腫れとかゆみが現れ、通常は数日で自然に治まります。しかし体質によっては、刺された翌日に大きく腫れ上がることもあり、これを遅延型アレルギー反応と呼びます。一方、ハチに刺された場合は即座に激しい痛みとともに赤く腫れ上がり、時にはアナフィラキシーショックという命に関わる重篤なアレルギー反応を引き起こすこともあるため、特に注意が必要です。
ノミやダニによる虫刺されも侮れません。ノミは主にペットを介して人に寄生し、足首や下腿部を中心に小さな赤い発疹が複数箇所に現れるのが特徴です。ダニの場合は、刺された箇所が長期間にわたってかゆみや腫れが続き、時には数週間も症状が残ることがあります。特にマダニは感染症を媒介する可能性があるため、適切な処置が欠かせません。
腫れが硬くなる原因と危険なサイン
虫刺されの腫れが硬くなってしまう原因はいくつか考えられます。最も多いのは、かゆみに耐えきれずかきむしってしまい、傷口から細菌が侵入して二次感染を起こすケースです。感染が進むと、刺された部分が赤く熱を持ち、膿がたまって硬いしこりのようになることがあります。
また、体質によっては虫の唾液成分に対する過剰な免疫反応が長期間続き、慢性的な炎症によって皮膚が硬く盛り上がることもあります。これを結節性痒疹と呼び、数ヶ月から年単位で症状が続くこともあるため、皮膚科での適切な治療が必要になります。
さらに注意すべきは、ダニやノミの一部が皮膚の中に残ってしまうケースです。特にマダニは吸血時に頭部を皮膚に深く食い込ませるため、無理に引き抜くと頭部だけが残ってしまい、それが原因で硬いしこりができることがあります。
ひどい腫れに潜む重大なリスク
虫刺されによる腫れが通常より大きく広がったり、刺された部分以外にも症状が現れたりする場合は、単純な虫刺されではない可能性を考える必要があります。特に全身症状を伴う場合は、速やかな医療機関受診が必要です。
発熱や寒気、全身の倦怠感が現れた場合は、虫刺されから細菌感染が全身に広がっている可能性があります。また、刺された部分から赤い線状の腫れが腕や脚に沿って広がっていく場合は、リンパ管炎という感染症の兆候かもしれません。これらの症状は抗生物質による治療が必要となるため、早期の受診が重要です。
呼吸困難や喉の違和感、全身のじんましん、めまいなどの症状が現れた場合は、アナフィラキシーショックの可能性があります。これは生命に関わる緊急事態であり、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。特にハチに刺された経験がある方は、2回目以降の刺傷でアナフィラキシーを起こすリスクが高まるため、エピペン(アドレナリン自己注射薬)の携帯を検討することも大切です。
腫れを効果的に抑える対処法
虫に刺されたら、まず患部を流水でよく洗い、清潔に保つことが基本です。その後、氷や保冷剤をタオルで包んで患部に当て、15分程度冷やします。冷却することで血管が収縮し、炎症物質の広がりを抑えることができます。ただし、直接氷を当てると凍傷の恐れがあるため、必ずタオルなどで包んでから使用してください。
かゆみが強い場合は、市販の抗ヒスタミン薬の内服が効果的です。抗ヒスタミン薬はアレルギー反応を抑える作用があり、かゆみと腫れの両方を軽減してくれます。また、虫刺され用の外用薬も併用すると良いでしょう。軽度の症状であれば抗ヒスタミン成分を含む市販薬で十分ですが、腫れがひどい場合はステロイド外用薬が必要になることもあります。
かきむしりを防ぐことも重要な対処法の一つです。特に就寝中は無意識にかいてしまうことが多いため、絆創膏やガーゼで患部を保護したり、手袋を着用したりすることも検討しましょう。お子さんの場合は爪を短く切っておくことで、かきむしりによる二次感染のリスクを減らすことができます。
虫刺されを防ぐ効果的な予防策
虫刺されは予防が何より大切です。外出時は肌の露出を控え、長袖・長ズボンを着用することが基本となります。特に草むらや森林など虫が多い場所では、靴下も忘れずに履きましょう。服の色も重要で、蚊は黒や紺などの暗い色に引き寄せられる習性があるため、白や薄い色の服を選ぶと良いでしょう。
虫除けスプレーの使用も効果的です。ディートやイカリジンといった成分を含む虫除け剤は、適切に使用すれば数時間の防虫効果が期待できます。ただし、お子さんに使用する場合は年齢に応じた濃度のものを選び、顔や手のひらへの直接噴霧は避けるようにしてください。
室内では網戸の設置や定期的な掃除が重要です。特にダニ対策として、布団は週に1回は天日干しするか、布団乾燥機を使用し、掃除機でしっかりと吸引することが大切です。湿度が高いとダニが繁殖しやすくなるため、除湿器やエアコンを活用して室内の湿度を50%以下に保つことも効果的です。
ペットを飼っている家庭では、ペットのノミ・ダニ対策も欠かせません。定期的な予防薬の投与や、ペット用シャンプーでの洗浄、寝床の清掃などを心がけましょう。散歩後はペットの体をブラッシングして、付着した虫を早期に発見・除去することも大切です。
医療機関を受診すべきタイミング
虫刺されの多くは自宅でのケアで改善しますが、以下のような症状が現れた場合は、速やかに皮膚科や内科を受診することをお勧めします。
刺された部分の腫れが直径5センチ以上に広がったり、3日以上たっても改善しない場合は、通常の虫刺されではない可能性があります。また、腫れが硬くなって痛みを伴う場合や、膿が出てきた場合は細菌感染を起こしている可能性が高いため、抗生物質による治療が必要です。
全身症状として発熱、悪寒、リンパ節の腫れ、関節痛などが現れた場合も、感染症や全身性のアレルギー反応の可能性があるため受診が必要です。特にマダニに刺された後にこれらの症状が現れた場合は、ライム病や日本紅斑熱などの感染症の可能性も考慮する必要があります。
医療機関では症状に応じて、抗生物質の内服や点滴、ステロイド薬の処方、場合によっては切開排膿などの処置が行われます。アレルギー反応が強い場合は、今後の対策としてエピペンの処方や、アレルギー検査を受けることも検討されます。
正しい知識で虫刺されと上手に付き合う
虫刺されは誰もが経験する身近なトラブルですが、時として重篤な症状を引き起こすこともあります。赤い腫れやひどい腫れが現れた場合は、まず冷却と清潔を心がけ、市販薬で様子を見ることから始めましょう。しかし、症状が改善しない場合や全身症状を伴う場合は、躊躇せずに医療機関を受診することが大切です。
日頃からの予防対策も忘れずに実践し、特に小さなお子さんがいる家庭では、虫刺されによる二次感染を防ぐための爪切りや、年齢に応じた虫除け対策を心がけてください。正しい知識と適切な対処法を身につけることで、虫刺されによる不快な症状を最小限に抑え、快適な生活を送ることができるでしょう。
もし虫刺されの症状でお困りの場合は、遠慮なく皮膚科専門医にご相談ください。一人ひとりの症状に応じた最適な治療法を提案させていただきます。
お問い合わせ・ご予約はお電話またはWEBからどうぞ。

仁川診療所
副院長 横山 恵里奈
(よこやま えりな)