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熱いお茶をこぼしてしまった、料理中に油がはねた、子どもがストーブに触ってしまった。日常生活の中で、やけどは誰にでも起こりうる身近なケガです。軽いやけどだと思って放置していたら、思いのほか治りが悪かったという経験はありませんか。やけどは適切な初期対応と治療によって、痛みを軽減し、きれいに治すことができます。

やけど(熱傷)とは何か

やけどは医学的には「熱傷」と呼ばれ、皮膚や粘膜が熱によって損傷を受けた状態を指します。私たちの皮膚は体の最も外側にある臓器で、外界からの刺激から体を守る重要な役割を果たしています。この皮膚が熱によってダメージを受けると、その防御機能が失われ、さまざまな問題が生じます。

やけどの怖いところは、見た目以上に深刻なダメージを受けている可能性があることです。表面は軽いやけどに見えても、熱が皮膚の深部まで伝わって組織を傷つけていることがあります。また、受傷直後は軽症に見えても、時間の経過とともに症状が進行することもあるため、初期の適切な判断と対処が非常に重要になります。

やけどによる損傷は、単に皮膚が傷つくだけではありません。重症の場合は、体液の喪失、感染症のリスク、体温調節機能の低下など、全身に影響を及ぼす可能性があります。そのため、やけどの程度を正しく評価し、適切な治療を行うことが大切です。

やけどの原因と種類

最も一般的なのは熱によるやけどです。熱湯、熱い油、蒸気、直火、熱した金属など、高温のものに触れることで起こります。家庭内では、調理中の事故が最も多く、特に天ぷら油による深いやけどは重症化しやすいため注意が必要です。お風呂の熱湯によるやけども、特に高齢者や乳幼児で多く見られます。

化学薬品によるやけども深刻な問題です。強い酸やアルカリなどの化学物質が皮膚に付着すると、化学反応によって組織が破壊されます。家庭用の洗剤や漂白剤でも、濃度が高いものや長時間接触した場合はやけどを起こすことがあります。化学やけどの特徴は、薬品が残っている限り組織の破壊が進行することで、通常の熱によるやけどとは対処法が異なります。

電気によるやけどは、見た目以上に深刻なダメージを与えることがあります。電流が体内を通過する際に発生する熱によって、皮膚だけでなく筋肉や内臓にも損傷を与える可能性があります。特に高圧電流によるやけどは、入口と出口の傷は小さくても、その間の組織が広範囲に損傷していることがあります。

放射線によるやけどには、日常的な日焼けから、放射線治療による皮膚炎まで含まれます。紫外線による日焼けも立派なやけどで、重症の場合は水ぶくれができたり、全身症状を伴ったりすることもあります。

摩擦によるやけども忘れてはいけません。ロープや床との摩擦によって皮膚が損傷を受ける「擦過傷」も、広い意味でのやけどに含まれます。

やけどの深さによる分類

やけどの深さによる分類
軽症
Ⅰ度熱傷
表在性熱傷
損傷の深さ
表皮のみ
外観
皮膚が赤くなる、水ぶくれなし
治癒期間
3〜5日
中等症
浅達性Ⅱ度熱傷
浅い真皮熱傷
損傷の深さ
真皮浅層まで
外観
強い赤み、水ぶくれあり
治癒期間
2〜3週間
中等症〜重症
深達性Ⅱ度熱傷
深い真皮熱傷
損傷の深さ
真皮深層まで
外観
赤〜白っぽい、水ぶくれあり
治癒期間
3週間以上
重症
Ⅲ度熱傷
全層熱傷
損傷の深さ
皮膚全層〜皮下組織
外観
白〜黒く焦げた状態
治癒期間
自然治癒困難

📊 やけどの詳細比較表

分類 痛みの程度 治療方法 予後 注意点
Ⅰ度熱傷 軽い痛み・ヒリヒリ感 冷却・保湿 完全治癒・跡なし 広範囲は脱水注意
浅達性Ⅱ度 強い痛み 外用薬・被覆材 ほぼ完全治癒 水ぶくれは破らない
深達性Ⅱ度 痛みはやや鈍い 専門的治療必要 瘢痕の可能性 感染予防が重要
Ⅲ度熱傷 痛みなし(神経損傷) 植皮手術 瘢痕形成 緊急治療が必要

⚠️ 重要な注意事項

  • 実際のやけどでは、複数の深さが混在することが多い
  • 受傷後2〜3日で深さが変化することがある
  • 見た目だけでの判断は危険 – 必ず医師の診察を受けましょう
  • Ⅲ度熱傷は痛みがないため軽症と誤解されやすいが、実は最重症

応急処置の重要性と方法

やけどを負った際の応急処置は、その後の経過を大きく左右します。適切な初期対応により、やけどの進行を防ぎ、痛みを軽減し、感染のリスクを下げることができます。

まず最も重要なのは冷却です。やけどを負ったらすぐに流水で冷やすことが基本です。水道水を使い、15〜30分程度冷やし続けます。この際、水の温度は15〜25度程度が適切で、氷や氷水は使用しないでください。冷やしすぎると血管が収縮して、かえって組織の損傷を悪化させる可能性があります。

衣服の上から熱湯などをかぶった場合は、無理に脱がそうとせず、服の上から水をかけて冷やします。衣服を脱がそうとすると、皮膚も一緒に剥がれてしまう危険があるためです。アクセサリー類は、腫れる前に速やかに外しておきます。

化学薬品によるやけどの場合は、大量の水で十分に洗い流すことが重要です。最低でも20分以上、できれば30分以上流水で洗い続けます。ただし、生石灰など水と反応して発熱する物質の場合は、まず乾いた布で払い落としてから水で洗います。

冷却後は、清潔なガーゼや布で患部を覆います。この際、患部に直接触れないよう注意し、締め付けないように軽く覆う程度にします。水ぶくれができている場合は、決して破らないようにしてください。水ぶくれの中の液体は、傷を保護し治癒を促進する役割があります。

民間療法として、味噌、醤油、アロエ、馬油などを塗る方法が伝えられていますが、これらは医学的根拠がないばかりか、感染のリスクを高める可能性があるため避けるべきです。

医療機関での治療

やけどの治療は、その深さと範囲によって大きく異なります。医療機関では、まず詳細な評価を行い、最適な治療方針を決定します。

軽症のやけどでは、外用薬による治療が中心となります。抗菌薬入りの軟膏やクリームを使用し、感染を予防しながら創部の治癒を促進します。最近では、湿潤環境を保ちながら治療する「湿潤療法」が主流となっており、創傷被覆材を使用することで、痛みが少なく、きれいに治ることが期待できます。

中等症のやけどでは、より積極的な治療が必要になります。水ぶくれの処理について、以前は破らないことが原則でしたが、現在では感染のリスクを考慮して、医師が適切に処置することもあります。また、痛みのコントロールも重要で、必要に応じて鎮痛薬が処方されます。

重症のやけどは、専門的な治療が可能な熱傷センターでの入院治療が必要です。初期には大量の輸液により脱水を防ぎ、全身管理を行います。深いやけどでは、壊死した組織を除去する手術(デブリードマン)や、健康な皮膚を移植する植皮手術が必要になることもあります。

リハビリテーションも重要な治療の一部です。特に関節部のやけどでは、瘢痕拘縮により関節の動きが制限されることがあるため、早期からのリハビリテーションが必要です。理学療法士による運動療法や、圧迫療法により、機能障害を最小限に抑えることができます。

家庭でのケアと注意点

軽症のやけどは、適切なケアにより家庭でも治療可能です。ただし、医師の診察を受けた上で、指示に従ってケアを行うことが大切です。

創部の清潔を保つことは、感染予防の基本です。毎日、ぬるま湯で優しく洗浄し、指示された軟膏を塗布した後、清潔なガーゼで覆います。ガーゼ交換の際は、創部に付着したガーゼを無理に剥がさず、ぬるま湯で湿らせてから優しく取り除きます。

痛みのコントロールも重要です。市販の鎮痛薬を適切に使用し、患部を心臓より高い位置に保つことで、腫れと痛みを軽減できます。また、患部を圧迫しないよう、ゆったりとした衣服を着用することも大切です。

栄養管理もやけどの治癒に重要な要素です。やけどの修復には多くのエネルギーとタンパク質が必要なため、バランスの良い食事を心がけ、特にタンパク質、ビタミンC、亜鉛を意識的に摂取します。水分補給も忘れずに行いましょう。

日光への暴露は避ける必要があります。やけどが治った後も、その部分の皮膚は日光に対して敏感になっているため、最低でも1年間は日焼け止めを使用し、直射日光を避けることが推奨されます。

経過観察も重要です。創部の色の変化、臭い、膿の有無、発熱、痛みの増強などがあれば、感染の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。

やけどの予防策

やけどの多くは予防可能です。日常生活の中で注意すべきポイントを押さえることで、やけどのリスクを大幅に減らすことができます。

家庭内での予防として、まず調理中の注意が重要です。鍋の取っ手は常に内側に向け、子どもの手の届かない位置で調理します。揚げ物をする際は、油の温度管理を徹底し、水分を含んだ食材を入れる際は特に注意が必要です。電気ポットや炊飯器の蒸気にも注意し、子どもが触れない場所に設置します。

浴室での事故防止も大切です。給湯器の温度設定を確認し、42度以下に設定することが推奨されます。入浴前には必ず湯温を確認し、特に高齢者や子どもの入浴時は付き添いが必要です。

子どもの安全対策は特に重要です。ライターやマッチは子どもの手の届かない場所に保管し、ストーブやヒーターには安全柵を設置します。熱い飲み物は子どもの手の届かないテーブルの中央に置き、テーブルクロスは使用しないか、子どもが引っ張れないよう固定します。

職場での予防も忘れてはいけません。高温の機械や化学薬品を扱う場合は、適切な保護具を着用し、安全手順を厳守します。定期的な安全教育と、事故発生時の対応訓練も重要です。

屋外活動では日焼け対策が必要です。日焼け止めを適切に使用し、長時間の直射日光は避けます。特に標高の高い場所や雪山、海辺では紫外線が強いため、より注意が必要です。

よくある質問

やけどした直後に何をすればいいですか?

まず流水で冷やすことが最も重要です。15〜25度程度の水道水で15〜30分間冷やし続けてください。氷や氷水は使わないでください。冷却により、やけどの進行を防ぎ、痛みを和らげることができます。その後、清潔なガーゼで軽く覆い、必要に応じて医療機関を受診してください。

水ぶくれはどう処理すればいいですか?

水ぶくれは自然のバンドエイドの役割を果たしているため、自分で破らないでください。水ぶくれの中の液体は、傷の治癒を促進する成分を含んでいます。誤って破れてしまった場合は、皮は剥がさずにそのままにして、清潔なガーゼで保護し、医師の診察を受けてください。

どの程度のやけどで病院に行くべきですか?

手のひらサイズ以上の範囲のやけど、水ぶくれができたやけど、顔・手・足・陰部・関節部のやけど、電気や化学薬品によるやけどは、必ず医療機関を受診してください。また、Ⅰ度熱傷でも痛みが強い場合や、数日経っても改善しない場合は受診をお勧めします。子どもや高齢者のやけどは、軽症に見えても受診した方が安心です。

やけどの跡を残さない方法はありますか?

初期の適切な治療が最も重要です。感染を防ぎ、適切な湿潤環境を保つことで、きれいに治る可能性が高まります。治癒後は、日焼けを避け、保湿を心がけることが大切です。瘢痕ができてしまった場合は、シリコンジェルシートや圧迫療法などの治療法があるので、皮膚科や形成外科に相談してください。

やけどの治療にはどのくらいの時間がかかりますか?

Ⅰ度熱傷は3〜5日、浅いⅡ度熱傷は2〜3週間で治癒することが多いです。深いⅡ度熱傷は3週間以上、Ⅲ度熱傷は手術が必要で、完全に治癒するまで数か月かかることもあります。ただし、個人差があり、年齢、栄養状態、基礎疾患の有無などによって治癒期間は変わります。定期的に医師の診察を受け、適切な治療を続けることが大切です。

副院長 横山 恵里奈

仁川診療所

副院長 横山 恵里奈

(よこやま えりな)