「体が重い」「何をするにもやる気が出ない」「ずっと疲れている感じがする」
こうした状態が続いていませんか。それは単なる疲れではなく、体からの重要なサインかもしれません。
倦怠感とは、全身に力が入らず、だるさや疲労感が続く状態を指します。朝起きても体が重く、何かをしようという気力が湧いてこない。こうした状態は、日常生活の質を大きく下げてしまいます。多くの方が「少し休めば治るだろう」と考えがちですが、倦怠感は時に深刻な健康問題のサインであることも少なくありません。
一時的な睡眠不足やストレス、過度な活動による疲れなら、十分な休息を取ることで回復するでしょう。しかし数週間、あるいは数ヶ月にわたって倦怠感が続く場合は、何らかの病気が隠れている可能性があります。早めに原因を特定し、適切に対処することが、健康を取り戻す第一歩となります。
倦怠感を引き起こす主な病気
長引く倦怠感の背景には、さまざまな病気が潜んでいる可能性があります。ここでは代表的なものをご紹介します。
貧血
血液中の赤血球が不足することで、体内に十分な酸素が届かなくなります。その結果、全身の倦怠感や息切れ、めまいなどが現れます。鉄分不足による鉄欠乏性貧血が最も多いですが、ビタミンB12や葉酸の不足、慢性疾患に伴う貧血もあります。特に女性は月経による鉄分喪失があるため、注意が必要です。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、体全体の代謝が落ちてしまいます。倦怠感に加えて、寒がりになる、体重が増える、肌が乾燥する、便秘がちになるといった症状が伴うことが多いです。特に中年以降の女性に多く見られる疾患です。
糖尿病
血糖値のコントロールがうまくいかないと、体内でエネルギーを効率的に使えなくなります。高血糖状態が続くと慢性的な疲労感が生じ、喉の渇き、頻尿、体重減少などの症状も現れます。初期には自覚症状が乏しいこともあるため、定期的な健康診断が重要です。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中に呼吸が繰り返し止まってしまうため、脳や体が十分な酸素を得られません。本人は眠っているつもりでも、実際には質の悪い睡眠しか取れていないため、日中の強い眠気と倦怠感に悩まされます。いびきがひどい、朝起きたときに頭痛がする、日中突然眠くなるといった症状があれば、この病気を疑うべきです。肥満、高血圧、糖尿病との関連も深く、放置すると心血管疾患のリスクが高まります。
うつ病
精神的なストレスや心理的な負担が長期間続くと、うつ病を発症することがあります。気分の落ち込み、興味や喜びの喪失といった精神症状に加えて、体の倦怠感も重要なサインです。「やらなければいけないことはわかっているのに、体が動かない」という状態が続く場合は、早めに専門家に相談することが大切です。
これらの病気が原因の場合、単に休息を取るだけでは改善しません。適切な診断を受け、病気に応じた治療を行う必要があります。
疲労が溜まっているときに現れる症状
倦怠感と一緒に、以下のような症状が現れることがよくあります。自分の状態をチェックしてみましょう。
集中力が続かなくなるのは、疲労の典型的なサインです。仕事中にぼんやりしてしまう、読んでいる本の内容が頭に入らない、会話の内容を覚えていられないといった状態になります。判断力や思考力も鈍くなり、普段なら簡単にできることに時間がかかるようになります。
日中の強い眠気も要注意です。十分な睡眠時間を確保しているはずなのに、昼間眠くて仕方がない。会議中や運転中にも眠気に襲われるようなら、睡眠の質に問題があるか、何らかの病気が隠れている可能性があります。
体のあちこちが痛むこともあります。筋肉痛や関節痛を感じ、体全体が重く感じられます。これは体の回復が追いついていないサインで、休息が必要な状態を示しています。
食欲がなくなるのも疲労の影響です。食べる気力がわかず、食事量が減ってしまいます。その結果、必要な栄養が取れずにさらにエネルギー不足になるという悪循環に陥ることもあります。
こうした症状が複数当てはまり、長期間続いている場合は、生活習慣を見直すか、医療機関を受診することを検討してください。
自宅でできる倦怠感の解消法
倦怠感を和らげるために、日常生活の中で実践できる方法があります。まずはこれらを試してみましょう。
質の良い睡眠を確保する
睡眠時間だけでなく、睡眠の質が重要です。寝る1時間前にはスマートフォンやパソコンの画面を見ないようにし、部屋を暗くして落ち着いた環境を作りましょう。毎日同じ時間に寝起きする規則正しい生活リズムが、質の良い睡眠につながります。寝室の温度や湿度も快適に保ち、寝具は自分の体に合ったものを選びましょう。
バランスの取れた食事を心がける
エネルギー不足は倦怠感を悪化させます。特にビタミンB群や鉄分、マグネシウムを含む食品を意識して摂りましょう。レバー、赤身の肉、魚、卵、大豆製品、緑黄色野菜、全粒穀物、ナッツ類などがお勧めです。朝食を抜かず、1日3食を規則正しく食べることも大切です。
無理のない運動を取り入れる
疲れているときに運動するのは逆効果に思えるかもしれませんが、適度な運動は血行を促進し、疲労物質の排出を助けます。激しい運動は必要ありません。1日20〜30分のウォーキング、軽いストレッチ、ヨガなどで十分です。体を動かすことで、夜の睡眠の質も向上します。
ストレスと上手に付き合う
慢性的なストレスは体に疲労を蓄積させます。完全にストレスをなくすことは難しいですが、自分なりのリラックス方法を見つけることが大切です。深呼吸、瞑想、好きな音楽を聴く、趣味の時間を持つなど、心が落ち着く時間を意識的に作りましょう。人と話すことでストレスが軽減されることもあるため、信頼できる人に相談するのも良い方法です。
これらの方法を続けても倦怠感が改善しない場合は、医療機関での相談を検討してください。
睡眠時無呼吸症候群による倦怠感について
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、倦怠感の重要な原因の一つです。この病気では、睡眠中に呼吸が何度も止まったり浅くなったりするため、脳と体が十分な酸素を得られません。
本人は眠っているつもりでも、実際には脳が何度も覚醒しており、深い睡眠が得られていません。そのため朝起きたときから疲れが残っており、日中も強い眠気と倦怠感に悩まされます。家族から「いびきがうるさい」「寝ているときに呼吸が止まっている」と指摘されたことがあれば、SASの可能性があります。
SASは肥満、喫煙、飲酒、加齢などがリスク要因となり、特に中年以降の男性に多く見られます。また高血圧、糖尿病、心疾患、脳卒中とも深い関連があり、放置すると命に関わる合併症を引き起こすこともあります。
治療の中心となるのは、CPAP(持続陽圧呼吸療法)という装置を使った治療です。睡眠中に鼻マスクを装着し、空気を送り込むことで気道を開いた状態に保ちます。また生活習慣の改善も重要で、減量、禁煙、アルコール摂取の制限が推奨されます。横向きで寝る、寝る前の飲酒を避けるといった工夫も効果的です。
SASが疑われる場合は、睡眠専門の医療機関を受診し、睡眠検査を受けることをお勧めします。
よくある質問にお答えします
倦怠感は体全体に力が入らず、だるさが続く状態を指します。一方、疲労感は活動後に感じる一時的な疲れです。疲労感は休息を取れば回復しますが、倦怠感は十分な休息を取っても改善せず、何らかの健康問題が隠れている可能性があります。
まずは生活習慣を見直し、十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動を心がけてください。1〜2週間試してみても改善しない場合は、医療機関を受診して原因を特定することをお勧めします。
はい、睡眠不足は倦怠感の大きな原因です。体は睡眠中に修復と回復を行うため、睡眠時間が不足すると疲労が蓄積し、翌日に持ち越されます。慢性的な睡眠不足は、さまざまな健康問題の引き金にもなります。
はい、慢性的なストレスは体内のホルモンバランスを乱し、倦怠感を引き起こします。ストレスホルモンであるコルチゾールが長期間高い状態が続くと、疲労感が強くなり、精神的な健康にも悪影響を及ぼします。
ビタミンB群を多く含む豚肉、レバー、卵、大豆製品、鉄分を含むほうれん草やひじき、マグネシウムを含むナッツ類やバナナ、良質なタンパク質を含む魚介類などがお勧めです。バランス良く食べることが大切です。
一時的に眠気を覚ますことはできますが、根本的な解決にはなりません。むしろ過度な摂取は睡眠の質を下げ、長期的には倦怠感を悪化させる可能性があります。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような状況では、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
2週間以上倦怠感が続く場合は要注意です。十分な休息を取り、生活習慣を改善しても倦怠感が治まらないなら、何らかの病気が隠れている可能性があります。
日常生活に支障が出ている場合も受診のサインです。倦怠感のために仕事ができない、家事がこなせない、外出する気力がないといった状態なら、専門家の助けが必要です。
他の症状を伴う場合は特に注意が必要です。発熱、体重の急激な増減、動悸、息切れ、めまい、気分の落ち込みなどが倦怠感と一緒に現れている場合は、すぐに受診してください。
睡眠に関する問題がある場合も専門医に相談しましょう。大きないびき、睡眠中の無呼吸、日中の我慢できないほどの眠気があれば、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
倦怠感は「少し疲れているだけ」と軽視されがちですが、体からの重要なメッセージです。放置せずに早期に適切な診断と治療を受けることで、快適な日常生活を取り戻すことができます。

仁川診療所
院長 横山 亮
(よこやま りょう)