足の親指が痛い、爪の周りが赤く腫れている。
そんな症状に悩まされていませんか。それは巻き爪(陥入爪)かもしれません。爪の端が周囲の皮膚に食い込んでしまうこの状態は、放っておくと日常生活に支障をきたすこともあります。
巻き爪は爪が内側に巻き込むように変形し、その端が皮膚組織に刺さることで炎症や痛みを生じます。足の親指に最も多く見られ、最初は軽い違和感程度でも、進行すると歩くたびに激しい痛みを感じるようになります。さらに悪化すると、細菌感染を起こして患部が化膿し、赤く腫れあがることもあるのです。
この症状は突然現れるものではありません。毎日の爪の手入れ方法、普段履いている靴の種類、足にかかる体重の負荷など、日々の生活習慣が積み重なって発症します。体質的な要因も関係しているため、一度治っても再び繰り返す方も少なくありません。だからこそ、症状が軽いうちに正しい対処法を知り、実践することが大切なのです。
なぜ巻き爪になるのか
巻き爪の発症には複数の要因が絡み合っています。自分がどのタイプに当てはまるか確認してみましょう。
間違った爪の切り方
最も多い原因です。爪の端を深く切り込んだり、角を丸く整えたりすると、伸びてきた爪が皮膚の下に潜り込みやすくなります。特に「深爪」の習慣がある方は要注意です。
足に合わない靴
つま先が細くなったデザインの靴や、サイズが小さすぎる靴を履き続けると、爪に持続的な圧力がかかります。ハイヒールを日常的に履く方に巻き爪が多いのは、体重が前足部に集中するためです。
遺伝的な体質
生まれつき爪が湾曲しやすい形状をしていたり、足の骨格が特殊だったりする場合、どんなに気をつけていても巻き爪になりやすい傾向があります。家族に同じ症状の人がいる場合は、予防的なケアを早めに始めることをお勧めします。
足の怪我や感染
スポーツ中の衝撃や、爪周囲の細菌感染によって爪の成長パターンが乱れ、結果として巻き爪につながるケースが報告されています。
体重増加や加齢
体重が増えると足にかかる負荷が大きくなり、年齢を重ねると爪質が変化して厚く硬くなるため、どちらも巻き爪のリスクを高める要因となります。
これらの原因を理解することで、自分に合った予防策が見えてきます。特に複数の要因が重なっている場合は、専門医に相談して定期的なチェックを受けることが賢明です。
巻き爪の症状と進行
巻き爪の症状は段階的に進行します。早期に気づけば、簡単なケアで改善できることも多いのです。
初期段階では、歩いたり靴を履いたりしたときに爪の端がチクチクする程度の痛みを感じます。この時点では見た目に大きな変化はなく、「ちょっと痛いだけ」と見過ごしてしまいがちです。
症状が進むと炎症期に入ります。爪が刺さっている部分の皮膚が赤く腫れ始め、触ると熱を持っているのがわかります。この段階になると、歩行時の痛みが明らかに増し、痛みをかばって歩き方が変わることもあります。
さらに放置すると感染期へと移行します。細菌が侵入して化膿し、黄色っぽい膿が出てくるようになります。痛みは激しくなり、ズキズキとした拍動性の痛みを感じることも。この状態では靴を履くことさえ困難になり、日常生活に大きな支障が出始めます。
重症化すると、歩行そのものが難しくなります。患部をかばうため姿勢が悪くなり、膝や腰に負担がかかって二次的な問題を引き起こすこともあります。感染がさらに深部に広がれば、より深刻な合併症のリスクも高まります。
痛みや赤みに気づいたら、できるだけ早く対処することが重要です。「そのうち治るだろう」と先延ばしにせず、症状が軽いうちに適切なケアを始めましょう。
効果的な治療法:症状に応じた選択肢
巻き爪の治療には、症状の程度や原因に応じてさまざまな方法があります。
保存的治療(軽度の場合)
テーピング法を用いて、爪が正しい方向に成長するよう誘導します。この方法は痛みが少なく、日常生活を送りながら治療できる利点があります。
ワイヤー法
医療用の特殊なワイヤーを爪の表面に取り付け、その弾性力で爪を持ち上げて皮膚から離します。装着後も普通に生活できるため、多くの医療機関で採用されています。治療期間は数ヶ月かかることもありますが、痛みは早期に軽減されることが多いです。
爪の部分切除
皮膚への食い込みが深い場合に検討されます。局所麻酔をかけた上で、食い込んでいる爪の端だけを切除する処置です。外来で実施でき、処置後すぐに歩いて帰宅できます。ただし爪の切り方や靴の選び方を改善しないと再発する可能性があります。
根治的手術
何度も再発を繰り返す方や重症例に対して行われます。爪を作り出す爪母(そうぼ)という組織の一部を除去することで、問題のある部分の爪が二度と生えてこないようにします。完治率は高いですが、爪の形が変わることを理解した上で選択する必要があります。
抗菌薬の投与
細菌感染を併発している場合は、他の治療と並行して行います。炎症と感染をコントロールすることで、治療効果も高まります。
どの治療法が最適かは、症状の程度、患者さんの生活スタイル、治療にかけられる時間などによって変わります。専門医とよく相談して、自分に合った方法を選びましょう。
再発を防ぐために毎日できる予防ケア
巻き爪は一度治っても、生活習慣が変わらなければまた繰り返します。日々のケアで予防することが何より大切です。
正しい爪の切り方
- 爪は指先の形に沿って横一直線に切る(スクエアオフ)
- 両端の角は少し残すようにする
- 爪やすりで角を軽く丸める程度はOK、深く切り込むのはNG
- 爪の白い部分が1ミリ程度残る長さが理想
靴選びのポイント
- 足の実寸に合ったサイズを選ぶ
- つま先に1センチ程度の余裕があるもの
- 幅が狭すぎる靴やヒールの高い靴は日常使いを避ける
- 通勤時はスニーカーを履くなど、足への負担を減らす工夫を
足の清潔と保湿
毎日の入浴時に指の間までしっかり洗い、入浴後は水分を完全に拭き取ります。その後、保湿クリームで皮膚を柔らかく保つことで、爪が食い込みにくくなります。特に乾燥しやすい季節は念入りにケアしましょう。
適正体重の維持
体重が増えると足にかかる負荷が大きくなり、爪への圧力も増します。バランスの取れた食事と適度な運動で、足の健康を守りましょう。
巻き爪になりやすい体質の方は、数ヶ月に一度、フットケア専門の医療機関でチェックを受けることも検討してください。早期発見できれば、簡単な処置で済むことがほとんどです。
自宅でできる初期ケアと注意点
軽い症状なら、自宅でのケアで改善することもあります。ただし症状の見極めが重要です。
足を清潔に保つことから始めましょう。温かいお湯に足を10分ほど浸けると、皮膚が柔らかくなって痛みが和らぎます。その後はタオルでしっかり水分を拭き取り、患部を乾燥させます。湿った状態が続くと細菌が繁殖しやすくなるため、特に指の間は念入りに乾かしてください。
圧迫を避ける工夫も大切です。自宅にいるときは靴を脱ぎ、素足やゆったりしたサンダルで過ごしましょう。就寝時も靴下を履かないほうが、患部への刺激が少なくなります。
市販の巻き爪ケアグッズを活用する方法もあります。爪と皮膚の間に挟むクッション材や、爪を持ち上げる矯正テープなどが薬局で入手できます。ただし使用方法を誤ると症状を悪化させることもあるため、パッケージの説明をよく読んで正しく使用してください。
やってはいけないこと
先の尖ったもので爪を掘り返すような行為は絶対に避けてください。感染のリスクが高まり、症状が急激に悪化する可能性があります。
こんな時はすぐ受診を
- 痛みが数日経っても改善しない
- 赤みや腫れが広がっている
- 膿が出ている
- 発熱がある
特に糖尿病や血流障害のある方は、小さな傷でも重症化しやすいため、早めの受診が必要です。
よくある質問への回答
軽度の初期段階であれば、正しい爪の切り方と靴の改善で徐々に良くなることもあります。しかし爪が明らかに皮膚に食い込んでいる場合や痛みが続く場合は、自然治癒は期待できません。適切な治療を受けることをお勧めします。
多くの場合、手術をしなくても改善可能です。ワイヤー法や装具による矯正で症状が解消する方は少なくありません。ただし重症例や何度も再発する場合は、根本的な解決のために手術が必要になることもあります。
残念ながら再発する可能性はあります。特に根本的な原因である爪の切り方や靴の習慣を改善しないと、高い確率で繰り返します。治療と並行して予防策を実践することが、再発防止の鍵となります。
患部を冷やすと一時的に痛みが軽減されることがあります。清潔なガーゼや絆創膏で爪と皮膚の間に小さなクッションを作るのも効果的です。ただしこれらは応急処置であり、根本的な解決にはなりません。痛みが強い場合は医療機関を受診してください。
子どもにも発症します。特に成長期はサイズの合わない靴を履いていることが多く、また爪を正しく切れていないケースも見られます。お子さんが足の痛みを訴えたら、爪の状態を確認してあげてください。
軽度から中等度の症状なら、まず一般の皮膚科で診てもらうのがよいでしょう。症状が重い場合や再発を繰り返す場合は、巻き爪治療の専門的な設備や経験を持つクリニックの受診を検討してください。

仁川診療所
副院長 横山 恵里奈
(よこやま えりな)