宝塚市の内科・循環器内科・皮膚科の仁川診療所

nausea

ホーム 疾患 吐き気・嘔吐

吐き気・嘔吐

急に胸がムカムカして吐きそうになったり、実際に嘔吐してしまったりした経験は誰にでもあるのではないでしょうか。吐き気や嘔吐は日常的によく見られる症状ですが、その原因はさまざまで、時には重大な病気のサインである可能性もあります。

吐き気・嘔吐とは

吐き気とは、胸やみぞおち、喉の奥に感じる不快感で、「吐きそう」「ムカムカする」といった感覚のことです。医学的には「悪心(おしん)」とも呼ばれます。一方、嘔吐は実際に胃の内容物が食道を逆流して口から吐き出されることを指します。

吐き気と嘔吐は密接に関連していますが、必ずしもセットで起こるわけではありません。吐き気だけが続くこともあれば、前触れなく突然嘔吐することもあります。これらの症状は、体が何らかの異常を知らせるサインとして現れることが多く、軽い食べ過ぎから重篤な病気まで、実にさまざまな原因が考えられます。

吐き気や嘔吐のメカニズムは複雑で、脳の延髄にある嘔吐中枢が刺激されることで起こります。この嘔吐中枢は、胃腸からの刺激、内耳からの情報、精神的ストレス、薬物、毒素など、多様な刺激を受けて反応します。つまり、吐き気や嘔吐は単に胃腸の問題だけでなく、全身のさまざまな異常を反映している可能性があるのです。

吐き気・嘔吐を引き起こす主な病気

吐き気や嘔吐の原因となる病気は多岐にわたりますが、日常的によく見られるものから順に説明していきます。

急性胃腸炎は最も一般的な原因の一つです。いわゆる「お腹の風邪」と呼ばれるもので、ウイルスや細菌の感染により胃腸に炎症が起こります。特に冬場に流行するノロウイルスや、子どもに多いロタウイルスによる胃腸炎では、激しい嘔吐と下痢が特徴的です。通常は数日で自然に回復しますが、脱水症状には注意が必要です。

食中毒も急性の吐き気・嘔吐の重要な原因です。腐敗した食品や、細菌に汚染された食品を摂取することで起こります。原因となる細菌や毒素によって症状の現れ方は異なり、食後数時間で発症する場合もあれば、数日後に症状が出ることもあります。集団で同じものを食べた人に同様の症状が出る場合は、食中毒を強く疑います。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍も吐き気の原因となります。胃や十二指腸の粘膜に傷(潰瘍)ができる病気で、みぞおちの痛みとともに吐き気が現れることがあります。特に空腹時や夜間に症状が強くなるのが特徴で、ピロリ菌感染が主な原因とされています。進行すると吐血することもあるため、早期の診断と治療が重要です。

頭部の問題が原因となることもあります。頭部外傷後の脳震盪、脳出血、脳腫瘍、髄膜炎などでは、頭蓋内圧の上昇により激しい頭痛とともに吐き気・嘔吐が現れます。特に頭を打った後に吐き気が続く場合や、突然の激しい頭痛とともに嘔吐する場合は、緊急性が高い状態である可能性があります。

妊娠初期のつわりも、多くの女性が経験する吐き気・嘔吐の原因です。妊娠に伴うホルモンバランスの変化により、妊娠5〜6週頃から吐き気が始まることが多く、通常は妊娠12〜16週頃には自然に軽快します。しかし、重症化して妊娠悪阻となると、入院治療が必要になることもあります。

その他にも、片頭痛、メニエール病などの内耳の病気、薬の副作用、がん治療の副作用、心筋梗塞、腎不全、肝不全など、実に多様な原因が吐き気・嘔吐を引き起こします。

診断のための検査

吐き気や嘔吐の原因を特定するため、医療機関では段階的に検査を行います。

まず医師は詳しい問診を行います。いつから症状が始まったか、どのような時に悪化するか、食事との関連はあるか、他にどのような症状があるか、服用している薬はあるか、などを詳しく聞き取ります。この問診が診断の重要な手がかりとなることが多いため、できるだけ正確に症状を伝えることが大切です。

身体診察では、腹部の触診で圧痛の有無や腫瘤の有無を確認し、聴診で腸の動きを評価します。また、脱水の程度を評価するため、皮膚の張りや口腔内の乾燥具合もチェックします。

血液検査は基本的な検査の一つです。白血球数や炎症反応(CRP)で感染症の有無を確認し、電解質バランスで脱水の程度を評価します。また、肝機能、腎機能、膵酵素なども同時に調べることで、内臓の異常を幅広くスクリーニングできます。

必要に応じて画像検査も行われます。腹部超音波検査は、胆石や虫垂炎、腸閉塞などの診断に有用です。頭部CTやMRIは、頭痛を伴う場合や神経症状がある場合に、脳出血や脳腫瘍を除外するために行われます。

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は、胃潰瘍や胃がんなど、上部消化管の病変を直接観察できる検査です。吐血がある場合や、薬物治療で改善しない場合に行われることが多いです。

女性の場合は、妊娠の可能性も考慮して尿検査や血液検査による妊娠反応の確認も重要です。

危険な吐き気・嘔吐の見分け方

吐き気や嘔吐の多くは一時的なもので自然に改善しますが、以下のような症状がある場合は、重大な病気のサインである可能性が高く、直ちに医療機関を受診する必要があります。

激しい頭痛を伴う嘔吐は、くも膜下出血や髄膜炎などの可能性があります。特に「今まで経験したことのない激しい頭痛」と表現されるような頭痛とともに嘔吐する場合は、救急車を呼ぶべき状況です。意識がもうろうとしたり、呂律が回らなくなったりする場合も、脳の重大な病気を示唆します。

吐血(血を吐く)や、コーヒー残渣様嘔吐(血液が胃酸で変化して茶色になったもの)は、上部消化管からの出血を示します。胃潰瘍の悪化や食道静脈瘤破裂などが原因で、大量出血の可能性もあるため緊急の対応が必要です。同時に黒色便(タール便)が見られることもあります。

激しい腹痛を伴う嘔吐も要注意です。急性虫垂炎、腸閉塞、急性膵炎、胆石発作などでは、耐え難い腹痛とともに嘔吐が起こります。特に腹部全体が板のように硬くなる場合は、腹膜炎の可能性があり緊急手術が必要なこともあります。

頻回の嘔吐による脱水症状も危険です。口が渇く、尿が出ない、立ちくらみがする、皮膚の弾力がなくなるなどの症状は脱水のサインです。特に高齢者や乳幼児は脱水になりやすく、重症化すると命に関わることもあります。

胸痛を伴う吐き気も見逃せません。心筋梗塞では、胸の圧迫感や痛みとともに、冷や汗、吐き気、嘔吐が現れることがあります。糖尿病の方や高齢者では、胸痛が軽くて吐き気が主症状となることもあるため注意が必要です。

吐き気・嘔吐の治療法

治療は原因に応じて行われますが、まず重要なのは脱水の予防と改善です。

水分補給は少量ずつ頻回に行うのがコツです。一度に大量に飲むと嘔吐を誘発するため、スプーン1杯程度から始めて、徐々に量を増やしていきます。経口補水液やスポーツドリンクを薄めたものが適していますが、吐き気が強い時は氷片をなめるだけでも効果的です。

薬物療法では、制吐薬(吐き気止め)が中心となります。ドンペリドンやメトクロプラミドなどの薬は、消化管の動きを整えて吐き気を抑えます。めまいを伴う場合は、抗ヒスタミン薬が有効なこともあります。原因疾患に応じて、胃酸を抑える薬、抗生物質、鎮痛薬なども併用されます。

重症の場合や経口摂取が困難な場合は、点滴による治療が必要です。水分と電解質を補給するとともに、制吐薬も点滴で投与できます。

食事療法も重要です。症状が落ち着いてきたら、消化の良いものから少しずつ食べ始めます。おかゆ、うどん、トースト、バナナなどから始めて、徐々に普通食に戻していきます。脂っこいもの、香辛料の多いもの、カフェイン、アルコールは避けましょう。

原因疾患の治療も並行して行います。感染性胃腸炎なら対症療法が中心ですが、細菌性の場合は抗生物質を使用することもあります。胃潰瘍ならピロリ菌の除菌療法、つわりなら妊婦でも使える薬の選択など、それぞれに応じた治療が行われます。

日常生活での予防と対処法

吐き気や嘔吐を予防するため、日常生活で心がけたいポイントがあります。

食生活の改善は基本中の基本です。規則正しい時間に、腹八分目を心がけて食事をとりましょう。よく噛んでゆっくり食べることで、胃腸への負担を軽減できます。食後すぐに横になったり、激しい運動をしたりするのは避け、30分程度は安静にすることが大切です。

ストレス管理も重要です。精神的ストレスは自律神経を介して胃腸の働きを乱し、吐き気の原因となります。十分な睡眠、適度な運動、趣味の時間を持つなど、自分なりのストレス解消法を見つけましょう。深呼吸や軽いストレッチも、緊張をほぐすのに効果的です。

アルコールとタバコは胃腸に大きな負担をかけます。特に空腹時の飲酒は胃粘膜を直接刺激し、吐き気や嘔吐の原因となります。禁煙・節酒を心がけることで、消化器症状の改善が期待できます。

乗り物酔いしやすい方は、乗車前の食事を軽めにし、進行方向を向いて座る、遠くの景色を見る、換気を良くするなどの対策が有効です。酔い止めの薬を事前に服用することも考慮しましょう。

感染予防も大切です。特に冬場のノロウイルス対策として、手洗いの徹底、食品の十分な加熱、調理器具の消毒などを心がけましょう。

よくある質問

吐き気が続くときはどうすればよいですか?

吐き気が2〜3日以上続く場合は、単なる胃腸の不調ではない可能性があります。特に体重減少、発熱、腹痛などの症状を伴う場合は、早めに内科を受診しましょう。原因を特定して適切な治療を受けることで、症状の長期化や悪化を防げます。

妊娠中の吐き気はいつまで続きますか?

つわりは個人差が大きく、妊娠5〜6週頃から始まり、多くの場合は妊娠12〜16週頃には自然に軽快します。しかし、妊娠後期まで続く方もいます。1日に何度も嘔吐する、体重が減少する、尿量が減るなどの症状がある場合は、妊娠悪阻の可能性があるため産婦人科医に相談してください。

吐き気を和らげるために有効な食べ物はありますか?

生姜は昔から吐き気止めとして使われており、生姜湯や生姜飴が効果的です。また、ペパーミントティーも胃腸の働きを整える効果があります。梅干しやレモンなど、さっぱりしたものも吐き気を和らげることがあります。ただし、個人差があるため、自分に合うものを見つけることが大切です。

ストレスが吐き気の原因になりますか?

はい、ストレスは吐き気の大きな原因の一つです。「機能性ディスペプシア」という病名もあり、検査で異常がないのに慢性的に胃の不調が続く状態を指します。ストレス対策とともに、必要に応じて消化器内科や心療内科での治療を検討しましょう。

市販薬で吐き気を治すことはできますか?

軽い吐き気なら、市販の胃腸薬や制吐薬で改善することもあります。ただし、原因によって適切な薬は異なり、誤った薬の使用は症状を悪化させることもあります。2〜3日使用しても改善しない場合や、他の症状を伴う場合は、自己判断せずに医師の診察を受けることが大切です。

受診の目安とタイミング

吐き気や嘔吐で医療機関を受診すべきタイミングを整理しておきましょう。

すぐに救急外来を受診すべき場合として、激しい頭痛や意識障害を伴う、吐血や下血がある、激しい腹痛で動けない、胸痛や呼吸困難を伴う、などがあります。これらは命に関わる可能性があるため、躊躇せずに救急車を呼んでください。

早めに一般外来を受診すべき場合として、吐き気・嘔吐が3日以上続く、食事や水分が十分にとれない、体重が減少している、38度以上の発熱を伴う、便に血が混じる、妊娠の可能性がある、などがあります。

様子を見てもよい場合として、明らかな原因(食べ過ぎ、飲み過ぎなど)がある、症状が軽く日常生活に支障がない、1〜2日で改善傾向にある、などがあります。ただし、症状が悪化したり、新たな症状が出現したりした場合は、速やかに受診してください。

まとめ

吐き気や嘔吐は、誰もが経験する一般的な症状ですが、その原因は実に多様です。多くは一時的なもので自然に改善しますが、時には重大な病気のサインであることもあります。症状の程度や随伴症状に注意を払い、必要に応じて適切なタイミングで医療機関を受診することが大切です。

日常生活では、規則正しい食生活、ストレス管理、感染予防などを心がけることで、吐き気や嘔吐のリスクを減らすことができます。症状が現れた時は、無理をせず安静にし、脱水に注意しながら回復を待ちましょう。そして、危険なサインを見逃さず、適切な医療を受けることで、健康な生活を取り戻すことができます。