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円形脱毛症

ある日鏡を見たら、頭に10円玉大の脱毛部分を見つけた。朝起きたら枕に大量の髪の毛が落ちていた。このような経験をされた方は、大きな不安を感じているのではないでしょうか。円形脱毛症は、突然髪の毛が抜け落ちる病気として知られていますが、適切な理解と治療により改善が期待できる疾患です。

円形脱毛症とは

円形脱毛症は、髪の毛が円形や楕円形に抜け落ちる自己免疫疾患です。ある日突然、境界がはっきりとした脱毛斑(だつもうはん)が現れるのが特徴で、痛みやかゆみなどの自覚症状はほとんどありません。多くの場合、家族や美容師さんに指摘されて初めて気づくことも少なくありません。

この病気の特徴は、脱毛部分の皮膚が正常であることです。炎症や傷跡はなく、つるつるとした状態になります。また、脱毛斑の周囲の毛を軽く引っ張ると簡単に抜けることがあり、これを「易抜去性(いばっきょせい)」といいます。脱毛斑の辺縁部では、根元が細くなった「感嘆符毛」と呼ばれる特徴的な毛が見られることもあります。

円形脱毛症は年齢や性別を問わず発症しますが、特に15〜30歳代での発症が多いとされています。日本では人口の1〜2%が一生のうちに一度は経験するといわれており、決して珍しい病気ではありません。頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、ひげ、体毛など、全身のどこにでも起こる可能性があります。

重要なのは、円形脱毛症は感染する病気ではないということです。また、不潔にしていたから起こるものでもありません。これは体の免疫システムの異常によって起こる病気であり、誰にでも起こりうる疾患なのです。

円形脱毛症の原因とメカニズム

円形脱毛症の原因については、長年研究が続けられてきました。現在最も有力な説は、自己免疫反応による毛包(もうほう)への攻撃です。

正常な状態では、私たちの免疫システムは外部から侵入した病原体を攻撃し、体を守る役割を果たしています。しかし円形脱毛症では、この免疫システムが何らかの理由で自分の毛包を「異物」と誤認し、攻撃してしまいます。特にTリンパ球と呼ばれる免疫細胞が毛包に集まり、毛母細胞(毛を作る細胞)の働きを妨げることで、毛が成長できなくなり脱毛が起こります。

なぜこのような自己免疫反応が起こるのか、その引き金については完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因も重要です。円形脱毛症の患者さんの約20%に家族歴があるとされ、特定の遺伝子(HLA遺伝子など)との関連が報告されています。ただし、遺伝するのは「円形脱毛症になりやすい体質」であって、必ず発症するわけではありません。

精神的ストレスも発症の引き金となることがあります。大きなストレスを経験した後に発症するケースは多く見られます。しかし、ストレスだけが原因ではなく、もともと円形脱毛症になりやすい体質を持つ人が、ストレスをきっかけに発症すると考えられています。

その他、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患、甲状腺疾患などの自己免疫疾患を持つ人は、円形脱毛症を発症しやすいことが知られています。また、ウイルス感染が引き金となることもあるという説もあります。

円形脱毛症の種類と症状

円形脱毛症は、脱毛の範囲や数によっていくつかのタイプに分類されます。この分類は治療方針を決める上でも重要です。

最も多いのは単発型で、頭部に1〜2個の脱毛斑が現れるタイプです。多くは2〜3センチ程度の大きさで、自然に治ることも多く、予後は比較的良好です。約60〜70%の患者さんがこのタイプに該当します。

多発型は、脱毛斑が3個以上見られるタイプです。複数の脱毛斑が融合して不規則な形になることもあります。単発型より治療に時間がかかることが多く、再発のリスクも高くなります。

蛇行型は、後頭部から側頭部の生え際に沿って帯状に脱毛が広がるタイプです。比較的まれですが、治療に抵抗性を示すことが多く、長期的な治療が必要になることがあります。

全頭型は頭髪がすべて抜け落ちるタイプで、円形脱毛症の約10%を占めます。急速に進行することもあれば、多発型から徐々に進行することもあります。精神的な負担も大きく、かつらの使用なども検討する必要があります。

最も重症なのが汎発型で、頭髪だけでなく、眉毛、まつ毛、体毛なども含めて全身の毛が抜け落ちます。全体の約5%と頻度は低いですが、治療は困難で長期化することが多いタイプです。

急性期には、脱毛斑の辺縁部で軽く引っ張ると簡単に毛が抜ける状態が見られます。また、爪に小さな凹み(点状陥凹)が見られることもあり、これは円形脱毛症の活動性を示すサインの一つです。

円形脱毛症の診断

円形脱毛症の診断は、多くの場合、特徴的な脱毛パターンを見ることで可能です。しかし、他の脱毛症との鑑別が必要な場合もあります。

診察では、まず脱毛部位の観察を行います。円形脱毛症では脱毛部の皮膚は正常で、炎症や瘢痕は見られません。ダーモスコピー(拡大鏡)を使用すると、感嘆符毛や黒点(毛包内に残った毛幹)などの特徴的な所見が確認できます。

プル試験も重要な検査です。脱毛斑の辺縁部の毛を軽く引っ張って、簡単に抜けるかどうかを確認します。活動期の円形脱毛症では、毛が簡単に抜けます。

血液検査では、甲状腺機能や自己抗体を調べることがあります。円形脱毛症の患者さんでは、甲状腺疾患や他の自己免疫疾患を合併することがあるためです。

鑑別すべき疾患には、男性型脱毛症(AGA)、女性型脱毛症、休止期脱毛症、抜毛症(トリコチロマニア)などがあります。特に抜毛症は、精神的ストレスから自分で髪を抜いてしまう病気で、不規則な脱毛パターンを示すため、詳しい問診が必要です。

まれに真菌感染症による脱毛(白癬)との鑑別が必要な場合もあり、その際は真菌検査を行います。

円形脱毛症の治療法

円形脱毛症の治療は、病型や重症度、年齢などを考慮して選択されます。治療の目標は、脱毛の進行を止め、発毛を促進することです。

軽症の単発型では、経過観察のみで自然治癒することもあります。実際、単発型の約80%は1年以内に自然に改善するとされています。ただし、進行する可能性もあるため、定期的な観察は必要です。

外用療法として最も一般的なのは、ステロイド外用薬です。炎症を抑え、免疫反応を抑制する効果があります。1日1〜2回、脱毛部位に塗布します。効果が現れるまでに2〜3か月かかることが多いため、根気よく続けることが大切です。

ステロイドの局所注射療法も効果的です。脱毛部位に直接ステロイドを注射する方法で、外用薬より効果が高いとされています。ただし、注射時の痛みがあること、皮膚の萎縮などの副作用の可能性があることから、医師とよく相談して行う必要があります。

局所免疫療法は、人工的にかぶれを起こす物質(SADBE、DPCPなど)を脱毛部位に塗布し、軽い皮膚炎を起こすことで発毛を促す治療法です。広範囲の脱毛に対して有効で、副作用も比較的少ないとされています。ただし、保険適用外の治療となります。

紫外線療法も選択肢の一つです。エキシマライトやナローバンドUVBなどの特定の波長の紫外線を照射することで、免疫反応を調整し発毛を促します。週1〜2回の通院が必要ですが、比較的安全な治療法です。

内服治療では、抗アレルギー薬、血流改善薬、漢方薬などが使用されることがあります。重症例では、ステロイドの内服(ステロイドパルス療法)や免疫抑制薬が使用されることもありますが、副作用のリスクもあるため慎重に適応を決める必要があります。

最近では、JAK阻害薬という新しい治療薬も注目されています。免疫反応を調整する薬で、海外では良好な治療成績が報告されています。日本でも臨床試験が進められており、将来的な治療選択肢として期待されています。

日常生活での対処法

円形脱毛症と診断されたら、治療と並行して日常生活でのケアも大切です。

まず、頭皮と髪の毛のケアについてです。脱毛部位を清潔に保つことは大切ですが、過度な刺激は避けましょう。シャンプーは優しく行い、強くこすらないようにします。整髪料の使用は問題ありませんが、脱毛部位への直接的な使用は控えめにしましょう。

栄養バランスの良い食事を心がけることも重要です。特に、タンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンB群は髪の健康に重要な栄養素です。偏った食事は避け、バランスの取れた食生活を送りましょう。

ストレス管理も欠かせません。ストレスが直接的な原因ではないとしても、症状の悪化要因となることがあります。十分な睡眠、適度な運動、趣味の時間を持つなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。

脱毛が目立つ場合の対処法もあります。帽子やバンダナ、ヘアピースの使用は、外見上の問題を解決し、精神的な負担を軽減します。最近では、医療用ウィッグも品質が向上し、自然な見た目のものが多くなっています。一部の自治体では、医療用ウィッグの購入費用を助成する制度もあります。

紫外線対策も忘れてはいけません。脱毛部位は日焼けしやすいため、外出時は帽子をかぶるか、日焼け止めを使用しましょう。

定期的な通院も重要です。治療効果の確認や、新たな脱毛斑の早期発見のためにも、医師の指示に従って定期的に受診しましょう。

心理的なサポート

円形脱毛症は外見に大きな影響を与えるため、精神的な負担を感じる方が多くいます。特に、頭髪は個人のアイデンティティと深く結びついているため、脱毛による心理的影響は決して軽視できません。

不安や落ち込み、自信の喪失、対人関係の悩みなど、さまざまな心理的問題が生じることがあります。これらの感情は自然な反応であり、決して恥ずかしいことではありません。

家族や友人の理解とサポートは、精神的な支えとなります。病気について正しく理解してもらい、過度な心配や誤解を避けることが大切です。円形脱毛症は感染しない病気であること、多くの場合は改善が期待できることを伝えましょう。

患者会への参加も有効です。同じ悩みを持つ人との交流は、孤独感を和らげ、前向きな気持ちを持つきっかけになります。治療経験や対処法の情報交換も役立ちます。

必要に応じて、カウンセリングを受けることも検討しましょう。専門のカウンセラーや心理士は、病気との向き合い方や、ストレス管理の方法についてアドバイスしてくれます。

学校や職場での配慮も重要です。必要に応じて、病気について説明し、理解を求めることも大切です。多くの学校や職場では、医療用ウィッグの着用などに理解を示してくれます。

円形脱毛症の予後

円形脱毛症の予後は、病型や発症年齢、合併症の有無などによって異なります。

単発型の場合、約80%は1年以内に自然治癒するといわれています。特に、初発で脱毛範囲が小さい場合は予後良好です。ただし、一度治っても再発することがあり、生涯再発率は約30%とされています。

多発型や全頭型、汎発型では、治療に時間がかかることが多く、完全に回復するまでに数年を要することもあります。また、改善と悪化を繰り返すことも少なくありません。

予後不良因子としては、発症年齢が若いこと(特に15歳以下)、アトピー性皮膚炎の合併、脱毛範囲が広いこと、爪の変化があること、蛇行型であることなどが挙げられます。

しかし、予後不良因子があっても、適切な治療により改善する例は多くあります。あきらめずに治療を続けることが大切です。また、医学の進歩により新しい治療法も開発されており、将来的にはより効果的な治療が期待できます。

よくある質問

円形脱毛症は自然に治りますか?

軽症の単発型では、約80%が1年以内に自然治癒するとされています。ただし、進行する可能性もあるため、経過観察は必要です。多発型や全頭型では自然治癒は難しく、適切な治療が必要になります。自己判断せず、皮膚科専門医に相談することをお勧めします。

円形脱毛症は遺伝しますか?

円形脱毛症そのものが遺伝するわけではありませんが、「円形脱毛症になりやすい体質」は遺伝する可能性があります。家族に円形脱毛症の方がいる場合、発症リスクは一般の人より高くなりますが、必ず発症するわけではありません。環境要因も大きく関与しています。

円形脱毛症は再発しますか?

残念ながら再発する可能性はあります。生涯再発率は約30%といわれています。再発を完全に予防する方法は確立されていませんが、ストレス管理や規則正しい生活を心がけることで、リスクを減らせる可能性があります。再発の兆候を早期に発見するためにも、定期的な観察が大切です。

円形脱毛症は他人にうつりますか?

円形脱毛症は感染症ではないため、他人にうつることは絶対にありません。プールや温泉、美容院なども普通に利用できます。この点を正しく理解してもらうことで、不必要な偏見や差別を防ぐことができます。

円形脱毛症は完全に治すことができますか?

多くの場合、適切な治療により改善が期待できます。ただし、病型や個人差により、治療効果や期間は異なります。全頭型や汎発型では完全に元通りになるまでに時間がかかることもありますが、新しい治療法の開発も進んでいます。あきらめずに治療を続けることが大切です。

副院長 横山 恵里奈

仁川診療所

副院長 横山 恵里奈

(よこやま えりな)