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狭心症

狭心症とはどのような病気か

心臓が「酸素が足りない」と訴えるとき、それが狭心症です。私たちの心臓は1日に約10万回も拍動し、全身に血液を送り続けています。この働きを支えているのが、心臓自身に酸素と栄養を運ぶ冠動脈という血管です。何らかの理由でこの冠動脈が狭くなると、心臓の筋肉に十分な酸素が届かなくなり、胸の痛みや圧迫感として症状が現れます。

狭心症には大きく分けて「安定狭心症」と「不安定狭心症」があります。安定狭心症は、階段を上ったり重い物を持ったりするなど、心臓に負担がかかったときに症状が現れ、休むと改善するのが特徴です。一方、不安定狭心症は安静にしていても突然症状が現れ、症状の頻度や強さが増していく危険な状態です。この区別は治療方針を決める上でとても重要になります。

狭心症が起こる仕組みと原因

狭心症の最も一般的な原因は動脈硬化です。これは血管の内側にコレステロールなどが蓄積し、血管が狭くなる状態を指します。長年の生活習慣の積み重ねによって、血管の内側にプラーク(粥腫)と呼ばれるこぶのようなものができ、血液の通り道が狭くなっていきます。

もう一つの重要な原因が冠動脈の痙攣(けいれん)です。血管が一時的に強く収縮することで血流が悪くなる現象で、特に日本人に多いとされています。明け方の時間帯、寒い環境、精神的ストレス、喫煙などが引き金となることが知られています。

これらの原因を悪化させる要因として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、運動不足、ストレスなどがあります。特に喫煙は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させる最も強力な危険因子の一つです。また、家族に心臓病の方がいる場合は、遺伝的な素因も考慮する必要があります。

見逃してはいけない狭心症の症状

狭心症の最も特徴的な症状は胸の痛みですが、その感じ方は人によってさまざまです。「胸が締め付けられる」「重い石を乗せられたよう」「焼けつくような感じ」など、患者さんによって表現は異なります。痛みは胸の中央から始まることが多く、左肩、左腕、あご、みぞおち、背中などに広がることもあります。

労作性狭心症では、坂道や階段を上るとき、重い荷物を持ったとき、急いで歩いたときなどに症状が現れ、立ち止まって休むと数分で改善します。一方、安静時狭心症では、夜中から明け方にかけて、寝ているときに突然胸が苦しくなることがあります。

胸痛以外にも、息切れ、冷や汗、吐き気、めまい、動悸などの症状が現れることがあります。特に女性や高齢者、糖尿病の方では、典型的な胸痛ではなく、これらの症状だけが現れることもあるため注意が必要です。「なんとなく調子が悪い」「疲れやすい」といった漠然とした症状も、狭心症のサインである可能性があります。

狭心症の診断方法

狭心症の診断は、まず詳しい問診から始まります。どのような状況で症状が現れるか、どのくらい続くか、何をすると楽になるかなど、症状の特徴を医師に正確に伝えることが重要です。

基本的な検査として、まず心電図検査が行われます。しかし、症状がないときの心電図は正常なことも多いため、運動負荷心電図検査を行うこともあります。これは、トレッドミルや自転車エルゴメーターで運動をしながら心電図を記録する検査で、運動によって誘発される狭心症を診断できます。

さらに詳しい検査として、心臓超音波検査(心エコー)で心臓の動きを観察したり、冠動脈CT検査で血管の狭窄を確認したりします。最も確実な診断方法は心臓カテーテル検査(冠動脈造影)で、造影剤を使って冠動脈の状態を直接観察します。この検査は入院が必要ですが、狭窄の程度や場所を正確に把握でき、治療方針を決定する上で重要な情報が得られます。

最近では、心筋シンチグラフィーや心臓MRI検査など、より低侵襲な検査方法も活用されています。医師は患者さんの症状や状態に応じて、最適な検査を選択します。

狭心症が引き起こす深刻な合併症

狭心症を適切に治療せずに放置すると、命に関わる深刻な合併症を引き起こす可能性があります。最も恐ろしいのは心筋梗塞への進行です。狭心症が「一時的な酸素不足」であるのに対し、心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まって「心筋が死んでしまう」状態です。胸痛が30分以上続く、安静にしても改善しない、強い不安感や死の恐怖を感じるといった場合は、心筋梗塞の可能性があるため、ためらわずに救急車を呼ぶべきです。

慢性的に心臓への血流が不足すると、心臓のポンプ機能が低下し、心不全を発症することがあります。息切れやむくみが徐々に悪化し、日常生活に支障をきたすようになります。また、心臓のリズムが乱れる不整脈も起こりやすくなり、特に心室細動のような致死的不整脈は突然死の原因となります。

これらの合併症は、適切な治療により多くの場合予防可能です。狭心症と診断されたら、症状が軽いからといって油断せず、医師の指示に従って治療を継続することが大切です。

狭心症の治療選択肢

狭心症の治療は、症状を改善し、心筋梗塞への進行を防ぐことを目的として行われます。治療方法は大きく分けて、薬物療法、カテーテル治療、外科手術があり、患者さんの状態に応じて選択されます。

薬物療法では、まず発作時の症状を速やかに改善する硝酸薬(ニトログリセリン)が処方されます。舌下錠やスプレータイプがあり、症状が現れたらすぐに使用します。予防的な薬として、β遮断薬やカルシウム拮抗薬が心臓の負担を軽減し、ACE阻害薬やARBが血管を保護します。また、血栓予防のためのアスピリン、コレステロールを下げるスタチン系薬剤も重要な役割を果たします。

カテーテル治療(経皮的冠動脈インターベンション:PCI)は、太ももや手首の血管からカテーテルを挿入し、狭くなった冠動脈を内側から広げる治療です。バルーンで血管を拡張した後、ステントという金属製の筒を留置して再狭窄を防ぎます。局所麻酔で行える体への負担が少ない治療で、多くの場合3~4日の入院で退院できます。

冠動脈バイパス手術(CABG)は、胸を開いて、狭窄した冠動脈を迂回する新しい血流路を作る手術です。自分の血管(内胸動脈や大伏在静脈など)を使って、大動脈から狭窄部より先の冠動脈につなぎます。複数の冠動脈に高度な狭窄がある場合や、カテーテル治療が困難な場合に選択されます。全身麻酔下で行う大きな手術ですが、長期的な効果が期待できます。

日常生活での注意点と心がけ

狭心症と診断されても、適切な治療と生活習慣の改善により、多くの方が普通の日常生活を送ることができます。まず最も重要なのは禁煙です。タバコは血管を収縮させ、血栓を作りやすくし、動脈硬化を進行させます。禁煙は狭心症の治療において、どんな薬よりも効果的といっても過言ではありません。

食事は心臓に優しいものを選びましょう。塩分は1日6g未満に抑え、野菜や魚を中心としたバランスの良い食事を心がけます。特に青魚に含まれるEPAやDHAは血管を保護する働きがあります。飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身や、トランス脂肪酸を含む加工食品は控えめにしましょう。

運動は心臓の健康維持に欠かせませんが、急激な運動は避け、医師と相談しながら適切な運動強度を決めることが大切です。一般的には、軽く汗ばむ程度の有酸素運動を週3~5回、1回30分程度行うことが推奨されます。運動前後のウォーミングアップとクールダウンも忘れずに行いましょう。

日常生活では、急激な温度変化を避けることも重要です。冬場の寒い屋外への急な移動、熱いお風呂などは血管を収縮させ、狭心症発作を誘発する可能性があります。また、過度のストレスも発作の引き金となるため、十分な睡眠、趣味の時間、リラクセーション法などでストレスと上手に付き合っていくことが大切です。

狭心症についてよくある質問

狭心症は完全に治りますか?

残念ながら、一度できた動脈硬化を完全に元に戻すことは困難です。しかし、適切な治療と生活習慣の改善により、症状をコントロールし、普通の生活を送ることは十分可能です。多くの患者さんが、治療を受けながら仕事や趣味を楽しんでいます。重要なのは、処方された薬をきちんと服用し、定期的な検診を受け、生活習慣の改善を継続することです。

狭心症の発作が起こった場合、どうすればよいですか?

まずその場で安静にし、処方されている硝酸薬(ニトログリセリン)を舌下に使用してください。5分経っても改善しない場合は、もう1錠使用できます。それでも症状が続く場合や、いつもと違う強い痛みを感じる場合は、心筋梗塞の可能性があるため、すぐに救急車を呼んでください。発作時の対処法は事前に医師とよく相談し、家族にも伝えておくことが大切です。

狭心症と心筋梗塞の違いは何ですか?

狭心症は冠動脈が一時的に狭くなることで起こり、安静にすると通常は15分以内に症状が改善します。一方、心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まり、心筋が壊死してしまう状態で、緊急の治療が必要です。胸痛が30分以上続く場合、冷や汗や強い不安感を伴う場合、ニトログリセリンが効かない場合は心筋梗塞を疑う必要があります。この違いを理解しておくことは、適切な対処をする上で重要です。

狭心症は遺伝しますか?

狭心症そのものが直接遺伝することはありません。しかし、動脈硬化を起こしやすい体質(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)は遺伝する可能性があります。家族に心臓病の方がいる場合は、若いうちから生活習慣に気を付け、定期的な健康診断を受けることが大切です。遺伝的なリスクがあっても、適切な予防対策により発症を遅らせたり、予防したりすることは可能です。

狭心症を予防するためにできることは何ですか?

狭心症の予防には、生活習慣の改善が最も重要です。具体的には、禁煙(最も重要)、バランスの取れた食事(塩分・脂肪分を控えめに)、適度な運動(週3~5回、1回30分程度の有酸素運動)、適正体重の維持、ストレス管理、定期的な健康診断などです。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症がある場合は、これらをしっかりと管理することが狭心症の予防につながります。

まとめ

狭心症は心臓からの重要な警告サインです。胸の痛みや圧迫感を感じたら、それを年齢のせいや疲れのせいにせず、早めに医療機関を受診することが大切です。現代医学の進歩により、狭心症は適切に管理できる病気となっています。

治療の選択肢は豊富にあり、薬物療法、カテーテル治療、バイパス手術など、個々の患者さんの状態に応じて最適な治療が選択されます。しかし、どんなに優れた治療を受けても、日々の生活習慣の改善なくして良好な経過は望めません。

禁煙、食事の改善、適度な運動、ストレス管理といった基本的なことを継続することが、狭心症の予防と管理の基盤となります。定期的な検診を受け、処方された薬をきちんと服用し、医師の指示に従って生活することで、狭心症があっても充実した人生を送ることができます。

心臓の健康は、あなた自身の手で守ることができます。今日からできることを一つずつ始めて、健康な心臓を維持していきましょう。