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心不全

心不全とは

心不全は「心臓が十分に働けなくなった状態」を表す言葉です。私たちの心臓は1日に約10万回も拍動し、全身に血液を送り続けています。この血液によって、体のすみずみまで酸素と栄養が運ばれ、老廃物が回収されています。しかし、何らかの原因で心臓のポンプ機能が低下すると、この大切な働きが十分にできなくなります。これが心不全です。

心不全は病名というより、さまざまな心臓病が最終的に行き着く状態を指します。徐々に進行する慢性心不全と、急激に悪化する急性心不全があり、どちらも適切な治療を受けなければ命に関わることがあります。しかし、現代医学の進歩により、早期発見と適切な治療で症状をコントロールし、日常生活を送ることが可能になってきています。

心不全の原因を理解する

心不全を引き起こす原因は実にさまざまです。最も多いのは高血圧です。血圧が高い状態が長く続くと、心臓は強い圧力に逆らって血液を送り出さなければならず、次第に心筋が厚くなり、やがて疲れ果てて機能が低下します。日本人の3人に1人が高血圧といわれる中、これは決して他人事ではありません。

冠動脈疾患も重要な原因です。心臓自身に酸素を供給する冠動脈が狭くなったり詰まったりすると、心筋が酸素不足に陥ります。特に心筋梗塞は、心筋の一部が死んでしまうため、急激に心機能が低下し、急性心不全を引き起こすことがあります。

心筋症という、心筋そのものに異常が生じる病気も心不全の原因となります。心筋が厚くなる肥大型心筋症、心臓が大きく広がる拡張型心筋症などがあり、原因不明のことも少なくありません。

心臓弁膜症では、心臓の中にある弁がうまく働かなくなります。弁が狭くなったり、きちんと閉じなくなったりすることで、血液の流れが悪くなり、心臓に負担がかかります。リウマチ熱の後遺症や加齢による変化が原因となることがあります。

さらに、糖尿病や肥満も心不全のリスクを高めます。これらは動脈硬化を進行させ、心臓への負担を増大させるからです。不整脈、特に心房細動も長期間続くと心機能を低下させることがあります。

心不全の症状を見逃さないために

心不全の症状は、心臓が十分に血液を送り出せないことから生じます。最も特徴的なのは息切れです。最初は階段を上ったり、坂道を歩いたりするときに息が切れる程度ですが、進行すると平地を歩いても息苦しくなり、さらに悪化すると安静にしていても呼吸が苦しくなります。

特に注意すべきは夜間の症状です。横になると息苦しくなり、枕を高くしないと眠れない、夜中に突然息苦しくなって目が覚める(発作性夜間呼吸困難)などは、心不全の重要なサインです。これは横になることで、下半身にたまっていた血液が心臓に戻り、弱った心臓が処理しきれなくなるためです。

むくみも心不全の代表的な症状です。足のすねを指で押すとへこんだまま戻らない、靴下の跡がくっきり残る、夕方になると靴がきつくなるなどの症状があれば要注意です。さらに進行すると、お腹に水がたまったり(腹水)、胸に水がたまったり(胸水)することもあります。

疲れやすさも見逃せない症状です。心臓が十分な血液を送れないため、全身の組織が酸素不足になり、少し動いただけで疲れてしまいます。今まで普通にできていた家事や仕事がつらくなったら、心不全のサインかもしれません。

体重の急激な増加も重要な指標です。1週間で2~3kg以上増えた場合は、体に水分がたまっている可能性があります。毎日同じ時間に体重を測る習慣をつけることで、早期に異常を発見できます。

心不全の診断方法

心不全の診断は、まず詳しい問診から始まります。どのような症状がいつから始まったか、どんなときに悪化するか、過去の病歴、服用している薬、家族歴などを医師に正確に伝えることが大切です。

身体診察では、医師が聴診器で心臓の音や肺の音を聞きます。心不全では特徴的な心雑音や、肺に水がたまることによる湿性ラ音が聞こえることがあります。また、首の静脈の張り具合、肝臓の腫れ、足のむくみなども確認します。

心電図検査は、心臓の電気的な活動を記録する基本的な検査です。不整脈の有無、心筋梗塞の痕跡、心臓の肥大などがわかります。胸部X線検査では、心臓の大きさや形、肺に水がたまっていないかを確認できます。

心エコー検査(心臓超音波検査)は、心不全の診断に最も重要な検査の一つです。心臓の動きをリアルタイムで観察でき、心臓の収縮力(駆出率)、心臓の大きさ、弁の動き、心臓の壁の厚さなどを詳しく評価できます。痛みもなく、繰り返し行える安全な検査です。

血液検査では、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPという心不全マーカーを測定します。これらは心臓に負担がかかると上昇する物質で、心不全の診断や重症度の評価に役立ちます。また、腎機能、肝機能、電解質なども同時に調べます。

心不全がもたらす合併症

心不全は全身に影響を及ぼす病気であり、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。腎不全は最も多い合併症の一つです。心臓から送り出される血液が減ると、腎臓への血流も減少し、腎機能が低下します。これにより老廃物が体にたまり、さらに心不全を悪化させる悪循環に陥ることがあります。

肺水腫は、心不全の急性増悪時に起こる危険な状態です。左心室の機能が急激に低下すると、血液が肺にうっ滞し、肺胞に水がしみ出してきます。激しい呼吸困難、ピンク色の泡状の痰、起坐呼吸(座らないと呼吸ができない)などの症状が現れ、緊急の治療が必要です。

不整脈も心不全でよく見られる合併症です。特に心房細動は、心房が小刻みに震えるような動きをする不整脈で、血流がよどみやすくなります。これにより血栓ができやすくなり、脳梗塞のリスクが高まります。

肝臓への影響も無視できません。右心不全では、全身から心臓に戻る血液がうっ滞し、肝臓が腫れて機能が低下します。進行すると肝硬変に至ることもあります。

血栓塞栓症のリスクも高まります。心不全では血流が遅くなり、特に心房細動を合併している場合は血栓ができやすくなります。この血栓が飛んで脳の血管を詰まらせると脳梗塞、肺の血管を詰まらせると肺塞栓症を引き起こします。

心不全の治療選択肢

心不全の治療は、原因となる病気の治療と、心不全そのものの治療の両面から行われます。薬物療法は治療の基本で、複数の薬を組み合わせて使用することが一般的です。

利尿薬は、体にたまった余分な水分を尿として排出させる薬です。むくみや息切れの改善に即効性があり、症状の軽減に役立ちます。ただし、使いすぎると脱水や腎機能の悪化を招くため、適切な量の調整が必要です。

ACE阻害薬やARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)は、血管を広げて心臓の負担を軽減し、心臓の保護作用もある重要な薬です。β遮断薬は心拍数を減らし、心臓を休ませる効果があります。最初は少量から始めて、徐々に増量していきます。

最近では、SGLT2阻害薬という糖尿病の薬が、心不全の治療にも有効であることがわかってきました。また、イバブラジンという心拍数を選択的に下げる薬や、サクビトリルバルサルタンという新しいタイプの薬も使われるようになっています。

重症の心不全では、デバイス治療が考慮されます。両心室ペースメーカー(CRT)は、左右の心室の収縮タイミングのずれを修正し、心臓の効率を改善します。植込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きたときに電気ショックで正常なリズムに戻す装置です。

外科手術が必要な場合もあります。心臓弁膜症が原因の場合は弁置換術や弁形成術、冠動脈疾患が原因の場合は冠動脈バイパス術が行われます。最重症の場合は、心臓移植や補助人工心臓の適応となることもあります。

日常生活で心がけること

心不全と診断されても、適切な治療と生活管理により、充実した日常生活を送ることは可能です。まず重要なのは塩分制限です。日本人の平均塩分摂取量は1日10g以上といわれていますが、心不全では6g未満に制限することが推奨されます。塩分を摂りすぎると体に水分がたまりやすくなり、心臓の負担が増すからです。

水分管理も大切です。心不全が重症の場合は、1日の水分摂取量を制限することがあります。ただし、制限しすぎると脱水になるため、医師の指示に従って適切な量を摂取することが重要です。

体重測定は毎日の習慣にしましょう。朝、排尿後の同じ時間に測定し、記録をつけます。短期間での体重増加は水分貯留のサインです。1週間で2kg以上増えたら、早めに医師に相談してください。

運動は心不全の管理に欠かせません。以前は心不全患者さんに安静を指示していましたが、現在では適度な運動が推奨されています。心臓リハビリテーションでは、専門スタッフの指導のもと、安全で効果的な運動プログラムを受けることができます。

禁煙は必須です。喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を進行させ、心臓への負担を増大させます。受動喫煙も同様に有害なので、家族の協力も得て、完全な禁煙環境を作ることが大切です。

感染症の予防も重要です。風邪やインフルエンザは心不全を悪化させる引き金となります。手洗い、うがいの励行、人混みを避ける、予防接種を受けるなど、感染予防に努めましょう。

心不全についてよくある質問

心不全は完治しますか?

心不全は慢性的に進行する病気であり、完全に治ることは難しいのが現実です。しかし、適切な治療と生活管理により、症状をコントロールし、進行を遅らせることは十分可能です。多くの患者さんが治療を受けながら、仕事や趣味を楽しみ、充実した生活を送っています。大切なのは、医師の指示に従って治療を継続し、定期的な検査を受けることです。

心不全を予防するにはどうすればよいですか?

心不全の予防は、その原因となる病気を予防することから始まります。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を予防・管理することが最も重要です。具体的には、減塩食、適度な運動(週150分以上の有酸素運動)、適正体重の維持、禁煙、節酒、ストレス管理などです。また、定期的な健康診断を受け、早期発見・早期治療を心がけることも大切です。

心不全と診断されたら、どのように生活を見直すべきですか?

まず医師や看護師から十分な説明を受け、病気を正しく理解することから始めます。処方された薬は指示通りに服用し、勝手に中断しないことが重要です。食事は塩分制限(1日6g未満)を基本とし、場合によっては水分制限も必要になります。毎日の体重測定、適度な運動、十分な休養、感染予防などを心がけます。また、症状の変化に注意し、悪化の兆候があれば早めに受診することが大切です。

心不全は遺伝しますか?

心不全そのものが直接遺伝することはありません。しかし、心不全の原因となる病気の中には遺伝的要因が関与するものがあります。例えば、高血圧、糖尿病、脂質異常症などは家族歴と関連があり、一部の心筋症(肥大型心筋症、拡張型心筋症など)には遺伝性のものがあります。家族に心臓病の方がいる場合は、より注意深く健康管理を行い、定期的な検査を受けることをお勧めします。

心不全の兆候がある場合、すぐに受診すべきですか?

息切れ、むくみ、疲労感、急激な体重増加などの症状が現れたら、早めに医療機関を受診することが大切です。特に、安静時の息切れ、起坐呼吸(横になると息苦しく、座ると楽になる)、1週間で2kg以上の体重増加、胸痛、意識障害などがある場合は、緊急性が高いため、すぐに受診するか救急車を呼んでください。早期診断・早期治療が、その後の経過を大きく左右します。

まとめ

心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送れなくなる状態です。高血圧、冠動脈疾患、心筋症、弁膜症など、さまざまな心臓病が最終的に心不全に至ります。息切れ、むくみ、疲労感などの症状が現れたら、早めの受診が大切です。

現代医学の進歩により、心不全の治療選択肢は大きく広がっています。薬物療法を基本として、必要に応じてデバイス治療や外科手術も行われます。しかし、何より重要なのは、患者さん自身による日々の生活管理です。

心不全と診断されても、決して絶望する必要はありません。適切な治療を受け、生活習慣を見直すことで、多くの方が充実した生活を送っています。医療チームと協力しながら、一歩一歩、着実に治療を続けていくことが、より良い生活への道となります。

心臓は生命の源です。その大切な心臓を守るために、今日からできることを始めていきましょう。